2011年11月14日-5
被災地への調整率の設定で、広がる経済活動への懸念

 国税庁は東日本大震災の被災地について、その被害実態に合わせて相続税などの算定基準となる路線価を引き下げる「調整率」を1日に発表した。こうした調整率が適用されるのは阪神淡路大震災があった1995年以来2度目だが、調整率が公表されたことに伴い、かえって風評被害が拡大するのではないか、あるいは金融機関の担保評価が下がることで融資を受けにくくなるのではないか、との懸念が広がっている。

 中でも、「ゼロ」と評価することが決まった福島原発周辺に関しては、資産評価の低下に警戒感が生まれている。国税庁では「あくまで相続税や贈与税の算定が目的で、土地としての価値がないと判断したわけではない」とするが、復興への阻害要因となりかねないとの意見もある。確かに、阪神大震災時の調整率は最大で25%(調整率0.75倍)の引下げだったものが、今回は最大で80%(同0.2倍)と引下げ幅が大きく上回っている。

 調整率適用の対象となったのは東日本大震災の被害が大きかった10県で、調整率の算出に際しては、(1)建物倒壊の程度、(2)鉄道や高速、港、電気、ガス、水道などライフライン・社会インフラの被害、(3)人口減による経済活動縮小、(4)液状化に伴うブランドイメージ低下、などの要因を考慮したとされ、その後の復旧状況や福島第1原発事故による放射線量の高低は加味せず、地域ごとに0.2~0.95倍の調整率を定めている。

 調整率が最も大きいのは宮城県の女川町(0.2倍)で、宮城県ではほかにも東松島市・南三陸町・山元町が0.25倍。その他、岩手県・宮城県・福島県の広い範囲で0.30倍の調整率が適用されており、これにより相続税や贈与税の負担が軽減される。また、関東地方でも液状化被害が発生した千葉県浦安市・埼玉県久喜市を始め、各県で比較的大きな調整率が適用となっており、経済活動の影響への警戒感につながっているものと思われる。

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