2010年04月28日-1
中小企業が支払う分掌変更退職金は要注意

 同族会社で数十年にわたって取締役を務めてきた妻が退任して監査役に就任、その際に退職金を支給するといったケースはよくある話だが、税務当局とのトラブルに陥る可能性も高い。紙器製造販売業のA社で、20数年取締役に就いてきた妻が退任、監査役となったことに伴い役員退職金の支給を決議。その退職金を損金に算入して申告したが、原処分庁が否認、賦課決定処分の取消を求めた裁判の例がある(2009年3月10日・長崎地裁)。

 判決では、(1)妻は原告の代表者の海外出張時に通訳を務めていたが、他の従業員が担当になった、(2)妻は監査役の任務のほかは原告の業務にほとんど関与しなくなった、(3)妻は飲食店業を営むため別の会社の設立準備を行い、設立後は代表取締役に就任し、毎日その経理や従業員の管理に携わっていた、と指摘。地位または職務の内容が激変したということができると判断、国側の主張を退けた。

 被告の国側は、妻は監査役に就任する直前には非常勤取締役に就任しており、監査役就任後も同額の報酬を得ていたことから、職務の内容が激変していない、などと主張していたが、判決は、報酬額の変化はその地位や職務の内容が激変した場合の一つの表れということができるとしても、それぞれの報酬額は月額20万円であり、監査役報酬をさらに低額にすることは困難とした。

 結局、妻の報酬額に変化がないことをもって、直ちに妻の地位または職務の内容が激変していないということはできないとして、原告の主張を認めた。この判決は、まさに納税者が勝った良い判決と位置付けるには問題がある。そもそも、分掌退職金を支払うという処理を行ったことに問題がある、と指摘する専門家も多い。このケースでは、完全に退職してしまうのが、無駄な訴訟費用をかけずに済むコツ。まさにリスク回避といえよう。

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