ゼイタックス

第14回 資産の所得費

 例えば車両を購入したとする。車両を購入するには、車両本体価格の他に、自動車税などの租税公課、強制保険などの損害保険料、登録のための手数料などが必要だが、税務上は、これらの費用を車両本体の価格に加えるべきなのか、それともこれらの費用を損金経理することができるのかという問題がある。
 車両の場合、上記費用は購入時の経費として損金経理することはできるが、購入した資産が土地の場合には、支出した付帯費用についてその判断が分かれることがある。
 田町企画は郊外でディスカウント店を経営する企業。郊外に格安の土地を取得しては新規の店舗を開店させている。税務調査では、新たに取得した土地に付帯して支払った費用が問題となった。

固定資産税

「土地を購入した日に支払っている固定資産税は、購入した土地の固定資産税ですね」
 調査官は、土地を購入した日の前後の出納帳から土地に関連していると思われる費用を抜き出して確認を始めた。
「売主から引き継いだ固定資産税です」
「買った土地の固定資産税は租税公課にはなりません」
「租税公課でないと言いますと」
 経理部長はけげんそうな表情で聞き返した。
「土地の取得価格に加算となります」
「税金ですから加算しなくてもいいと思います」
「この固定資産税は売主に課税されたもので、田町企画の固定資産税ではありません」
「いいえ、『固定資産税は売買の日で按分負担』と売買契約書に書かれています。ですので、当社の固定資産税です」
「あくまでも固定資産税の納税義務者は売主です。売買で日割り計算することはありません。単なる税の肩代わりですから、売買代金の一部となります」
「固定資産税を売主と買主の間で按分するのは業界の常識です」
「計算の基礎は固定資産税ですが、その実質は売買代金の上乗せですから、土地の取得価格として扱わなければなりません」
 調査官の指摘は正しい。固定資産の売買では、引渡しの日をもって固定資産税を按分する習慣があるが、買主が負担する固定資産税は課税権者に賦課されたものではないので、租税公課とすることはできない。すなわち、固定資産税はその年の1月1日現在の所有者に課税されるのであって、年の中途で所有者に移動があった場合に月割りをする扱いはないのである。

取得した建物の取壊し費用

「売買契約書を見ますと、土地と一緒に建物も購入されていますが、その建物はどうされましたか」
「購入後に取り壊しました」
「営業外費用に計上されている除去損がそれですね」
「その通りです」
「取壊しの費用はどうされましたか」
「どうしたと言いますと?」
「損金経理されたのですか」
「雑費で経理してあります」
「そのようですね。ですが、建物の除去損もその取壊し費用も土地の取得価格に加えなければなりません」
「土地と建物は別物です。なぜ土地と一緒にするのですか」
「当初から建物を取り壊して土地を利用するのが目的でしたから、建物の価格とその取壊し費用は土地の価格に含めることになります」
「当初からって……当初は建物を改装して使用する計画でした」
 経理部長は調査官が指摘することがわかり、その場で思いつきの反論をした。
「当初の計画がわかる書類を見せてください。役員会の議事録とか、店舗の計画図とか、ありますよね」
 経理部長がいい加減な返答をしたのを見抜いた調査官はこう質問した。
「役員会といますか、実際には社長がそのような計画を立てまして……」
「店舗の計画図はありますね」
「いえ、それが……具体的には……図面にはしていませんで……」
「結局は購入後2カ月ほどで建物を取り壊したではありませんか」
「何ヵ月後ならよかったのですか」
「そんな問題ではありません。最初から建物を壊す予定なら除去損は計上できないということです」
「最初は購入した建物を使う予定でした」
「それなら、なぜ計画の図面がないのですか。第一、取り壊した建物は500平方メートルしかなく、新築した店舗は5,000平方メートルもあります。面積が10分の1しかないものをどのように使う予定だったのですか」
「計画を変更したのです」
 下手な言い訳だ。こんな答弁では調査官は納得しない。
 土地を建物付きで購入する例は少なくない。購入後に建物を使用すれば問題ないのだが、購入した建物が取り壊された場合には事実の確認がなされることになる。事実の確認とは、当初から建物を取り壊す予定だったのか、当初は建物を使用する予定だったのか、ということだが、経理部長のようないい加減な答弁がなされることがあるから、法人税の基本通達は「取得後おおむね1年以内にその建物の取壊しに着手する」などの場合には、当初から土地だけを利用する目的であったとの判断をすることになっている。
 経理部長がどんな言い訳をしようとも、調査官の指摘をかわすことはできない。

地質調査の費用

「地質調査の費用が支払手数料で落とされていますが、この地質調査は今回購入された土地に関するものですね」
「その通りですが……」
「この費用も土地の取得費に加算する必要があります」
「それは土地の取得に要した費用ではありません」
「土地を購入する際に支払った費用ですから加算すべきです」
「産業廃棄物が地中に埋まっていたりすると厄介ですから、それを調べたのです。仲介料などとは性質が違います」
「土地の購入に直接関係した費用です」
「仮に土地を購入した後に地質調査をしたらどうなりますか? 支払い手数料でいいのではありませんか」
「購入後であれば損金でかまいません」
「そうでしょう。ですから、損金でいいはずですよ。これも」
「この地質調査で産業廃棄物が発見されていたら、この土地は購入しなかったのではありませんか」
「そうかもしれませんが、この費用は売主を信用できなかった当社の都合による支出ですから、土地の価格に加算するのは納得できません」
「取得に際して生じた費用ですから、取得費になります」
「仮に売主の信用調査をしていたらどうなりますか? その費用も土地の価格に加算なのですか」
「信用調査の費用は損金で構いません」
「そうでしょう。でしたら、地質調査の費用も損金でいいのではありませんか。会社を調査したのか、土地を調査したのか、違いはそこだけですから」
 経理部長の主張は正当だ。土地の取得価格に加算すべき費用は取得に要した費用のうち、仲介手数料など取得に直接要した費用である。購入予定地に産業廃棄物が埋められていないことを確認する費用は、登記簿や公図を調査して購入物件に瑕疵がないことを確認する費用も同じものである。地質調査の費用だけを土地に加算しなければならない理由はない。
 ただし、店舗建設のために行った地盤調査の場合には扱いは異なり、その費用は店舗の取得費に加算することになる。地盤調査は店舗の基礎を設計するのに不可欠な調査だからだ。
 支出された調査費用が産業廃棄物の調査なのか、あるいは地盤調査なのかは、調査会社から提出された報告書で簡単に判断できるはずである。
 調査官が地質調査の費用を土地の取得費に加算しようとしたのは、地盤調査の費用が建物の取得価格に加算されることを倣ったのだろうが、両者を同じに扱うことはできない。

15:続・資産の所得費