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第10回 「たな卸資産の評価」税理士 遠藤 雅己

 たな卸資産は、大多数の法人で保有している資産であり、決算期末におけるたな卸資産の評価額は法人の各期の損益を決定する重要な要素の一つといえます。

 そこで今回は、そのたな卸資産の評価方法を中心に解説します。

法人税法上、法人が採用することのできるたな卸資産の評価方法にはどのような方法がありますか。

法人税法に規定されているたな卸資産の評価方法は以下のようになります。

(1) 原価法……‡@個別法、‡A先入先出法、‡B後入先出法、‡C総平均法、‡D移動平均法、‡E単純平均法、‡F最終仕入原価法、‡G売価還元法

(2)低価法(原価法のいずれかの方法による評価額と期末における取得のために通常要する価額とのいずれか低い価額を評価額とする方法)

(3)税務署長の承認を受けた特別な評価方法

Q1の各評価方法の具体的計算方法はどのようになりますか。また、各評価方法の特徴にはどのような点がありますか。

各評価方法の計算および特徴は次のようになります。

(1)個別法
‡@ 計算方法……期末たな卸資産の全部について、その個々の取得価額をその取得価額とします。

‡A 特徴等……個々のたな卸資産をその取得価額により評価するため、個別管理をする商品(宝石、書画骨董等)や取得から販売消費まで個別管理され原価計算が行われるような製品等(建築工事、個別受注品等)に適用が限られます。

(2)先入先出法
‡@ 計算方法……期末たな卸資産をその種類等の異なるごとに区分し、その種類等の同じ物について、その期末たな卸資産がその事業年度終了の時から最も近い時期に取得した種類等の同じたな卸資産から順次なるものとみなし、そのみなされたたな卸資産の取得価額をその取得価額とします。

‡A 特徴等……実際の資産の受払いと一致する方法といえ、貸借対照表上のたな卸資産は期末時の時価に近いものとなりますが、損益計算書上の売上原価は期末時の時価には遠い金額となります。

(3)後入先出法
‡@ 計算方法……期末たな卸資産をその種類等の異なるごとに区分し、その種類等の同じものについて、まずその事業年度の前事業年度終了の時における種類等を同じくするたな卸資産から成り、次にその事業年度開始の時に最も近い時において取得した種類等を同じくするたな卸資産から順次成るものとみなし、そのみなされたたな卸資産の取得価額をその取得価額とします。

‡A 特徴等……先入先出法とは逆のため実際の資産の受払いには一致しない方法といえ、損益計算書上の売上原価は期末時の時価に近いものとなりますが、貸借対照表上のたな卸資産は期末時の時価を反映しなくなります。

(4)総平均法
‡@ 計算方法……期末たな卸資産をその種類等の異なるごとに区分し、その種類等を同じものについて、前期繰越額と期中取得価額の合計額をその合計数量で除して計算した額をそのたな卸資産1単位あたりの取得価額とします。

‡A 特徴等……期中におけるたな卸資産の受払い記録は、数量のみの把握で済むために手数がかからない方法といえます。しかし、期中に売上原価が算定できない欠点があります。

(5)移動平均法
‡@ 計算方法……期末たな卸資産をその種類等の異なるごとに区分し、その種類等の同じものについて、そのたな卸資産の取得の都度その取得の時おいて有するそのたな卸資産とその取得したたな卸資産との数量および取得価額を基礎に平均単価を改定し、その事業年度終了の時から最も近い時において改定された金額をそのたな卸資産の1単位あたりの取得価額とします。

‡A 特徴等……たな卸資産の受払いを数量だけでなく取得価額についても記録する必要があり、新たな取得の都度1単位あたりの取得価額改定計算を行うため手数を要する方法といえます。

(6)単純平均法
‡@ 計算方法……期末たな卸資産をその種類等の異なるごとに区分し、その種類等の同じものについて、その事業年度に取得した種類等を同じくするたな卸資産のうち1単位あたりの取得価額を異なるものを合計し、その合計額をその異なる1単位あたりの取得価額の数で除して計算した金額をそのたな卸資産の1単位あたりの取得価額とします。

‡A 特徴等……取得数量を考慮せず単価のみを単純に平均するので、期中の取得単価の変動が大きいときには、実態に合致しない計算結果になる場合があります。

(7)最終仕入原価法
‡@ 計算方法……期末たな卸資産をその種類等の異なるごとに区分し、その種類等の同じものについて、その事業年度終了の時から最も近い時において取得したものの1単位あたりの取得価額をその1単位あたりの取得価額とします。

‡A 特徴等……たな卸資産の継続的な受払い記録を必要としない方法で最も簡易な方法であり、評価方法を選定しない場合等の法定評価方法となっています。

(8)売価還元法
‡@ 計算方法……期末棚卸資産をその種類等又は通常の差益の率の異なるごとに区分し、その種類等又は通常の差益の率の同じものについて、その事業年度終了の時における種類等又は通常の差益の率を同じくする棚卸資産の通常の販売価額の総額に原価の率を乗じて計算した金額をその取得価額とします。

 *通常の差益の率とは、棚卸資産の通常の販売価額のうちにその通常の販売価額からその取得のために通常要する価額を控除した金額の占める割合をいいます。

 *原価率とは、期末たな卸資産の通常の販売価額の総額とその事業年度において販売したそのたな卸資産の対価の総額との合計額のうちにその事業年度開始の時におけるそのたな卸資産の取得価額の総額とその事業年度において取得したそのたな卸資産の取得価額の総額の合計額の占める割合をいいます。

‡A 特徴等……計算上、原価率が100%を超えて、売価を超える評価額が算出される場合であっても、その評価額を採用しなければならないことになります。

当社は現在はたな卸資産の評価をすべて最終仕入原価法で行っています。今後は商品については売価還元法によりたいと思いますが一部のたな棚卸資産のみ変更することはできますか。

法人は、たな卸資産の評価方法を、その営む事業の種類ごとに、かつ、たな卸資産の区分ごとに選定する必要があります。

また、事業所ごとにまたは、たな卸資産の区分を更にその種類等の異なるごと等合理的な区分ごとに細分してそれぞれ異なる評価方法を選定しても差し支えないこととされています。

 したがって一部の棚卸資産のみ評価方法を変更することは可能です。この場合、新たな評価方法を適用しようとする事業年度開始の日の前日までに、所轄税務署長に、評価方法の変更申請書を提出し、承認を受けなければなりません。

 法人税法は、その規模や業種に関係なくすべての法人を対象にしているので、期末たな卸資産を評価するために、必ずしも継続して受払記帳を必要とせず、決算期末に実地棚卸し等による棚卸表を作成しなければならないと規定しているだけです。

 しかし、期末たな卸資産の評価は各事業年度の損益に直接影響するため、税額計算の目的だけでなく、継続して受払記帳をすることで、たな卸資産の管理も行うことが出来ますから、可能な限り継続して受払記帳を行い、より正確な棚卸資産の数量等を把握することも、企業経営上、大変有益であると言えます。

11:有価証券の評価