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連載17 IV 銀行との上手な付き合い方(5)

5 支店長・融資担当者とどう付き合うか

 「敵を知り己を知れば百戦危うからず」。企業側も銀行交渉の窓口となる人物を冷静に判断し、銀行員が企業担当者をどのように見ているか研究することが、円滑な銀行取引の推進にもつながります。

(1)銀行側からみた経営者・経理担当者のタイプ
‡@ 謹厳実直型
 経理担当者に最も多いタイプです。銀行との交渉態度も誠実で、資料などもすぐに揃えてくれる、銀行の業務推進上、最も頼りになるタイプです。

 しかし、このタイプは銀行担当者と打ち解けることは少なく、銀行からみて必要最小限の情報しか得られないタイプでもあります。

 企業と銀行とはパートナーです。馴れ合う必要はありませんが、相応の親密度は不可欠であり、そのことが銀行取引の潤滑油となることも忘れてはなりません。

‡A 情実型
 無理な融資の依頼であっても、過去の取引実績や支店幹部との親交を言い立て、情実にすがって通そうとする経営者のタイプです。数字に疎く、計数などは銀行が判断すべきことだと考え、担当者を数字で説得することができないタイプです。時には、哀訴や強要といった手を使い、銀行を困惑させます。

‡B 権力志向型
 若い融資担当者より支店長との交渉を重要視するタイプです。現場の担当者としては支店長への遠慮もあって、面倒な資料請求はしにくいものです。

 往々にして担当者の反発を招きやすく、支店長の交代などによって思わぬ対応の変化が生じるタイプといえます。

‡C 夢追い型
 到底実現できそうもない夢ばかりを延々と語るタイプです。夢を見て、夢を追いかけ、夢を実現させることが経営者の夢ではありますが、夢ばかりで現実の足元を見ようとしないタイプです。実情は銀行のほうがしっかり把握している場合が多く、たび重なると銀行の信頼も失われ、イザという時に無形の不利益を被ることがあります。

‡D 理想のタイプ
 企業と銀行はパートナーの関係であると心得、銀行の業務が縦割りで遂行されていることを理解して交渉に臨む経営者であり、経理担当者です。

 銀行の繁忙日を避け、必要な交渉は的確に短時間で済ませ、整備された資料が準備されており、必要に応じて有用な情報提供も行うタイプが理想といえます。

(2)企業側から見た銀行員のタイプ
 次に、企業側から見た銀行員のタイプをチェックしてみます。

‡@ 紋切型
 典型的な銀行員タイプ。銀行員としての職務範囲を自ら割りきり、それ以上のことはしません。創造力や提案力、そして融通性にも欠く、商売的なセンスを持ち合わせていないタイプといえます。

‡A 権力志向型
 豊富な金融知識と顧客折衝経験を持ち、節度のある対応によって銀行と企業との取引メリットを総合的に判断し、バランス感覚をもって対処するタイプが理想といえます。

 このタイプは、交渉に当たり応対が良いわけではなく、むしろ厳しい感じを受けます。それも責任感の強さの現われであり、口も出すがそれなりの対応もきちっとやります。企業にとって最も頼りになるタイプといえます。

 以上のような、それぞれのタイプの特質を理解し、自分がどのようなタイプに属するのか、また担当の銀行員がどのタイプなのか冷静に判断すれば、自ずから対応の仕方がみえてきます。

(3)銀行担当者の役割
 銀行との交渉は担当のインを無視して行うことはできず、ラインを無視した交渉は無駄になるばかりか、場合によっては危険なこともあります。

 このことを前提に、融資交渉の窓口になる担当者・担当役席・支店長の役割をみてみます

‡@ 融資担当者
 融資先を分担して担当し、資料の整理や、稟議書の作成を行う、いわば融資事務の基本処理を行います。取引先企業の情報を収集し、稟議書に反映させ得る立場にあります。大抵、若手行員が担当しますが、稟議書作成に当たって一次意見を述べる立場にあり、この段階で不採用となれば万事休すです。

‡A 融資担当役席
 原則的に担当先を持たず、融資担当者の作成した稟議書を総合的に判断する立場にあります。採用可と判断した場合は、二次意見を付けて支店長の最終決済に委ねることになります。

 融資担当役席はベテランが多く、この二次意見が実質的に可否を決定することになります。これは、融資担当役席が常時、顧客情報を集中管理しており、最終判断に当たり、担当役席の意見を重視せざるを得ないからです。

‡B 支店長
 支店における最終責任者であり、最終判断を下す立場にあります。支店長権限が与えられており、権限内の案件は決済後即実行に移され、権限を越えるものは、本部決済に回されることになります。

 以上、基本的には融資を依頼する場合には、銀行内のラインを尊重し、融資担当者との接触を密にすると同時に、融資担当役席にも十分根回しをしておくことがポイントとなります。

 支店長をキーマンと認識し、支店長との直接交渉を目論む企業も少なくありません。このやり方は、支店長の資質次第で必ずしも無効とはいえないものの、現場での反発を招くため、支店長の交代などで思わぬ取引方針の変更を受ける恐れがありますので、注意が必要です。

(4)効果的な交渉のタイミング
 銀行との効果的な交渉を行うには、これまで述べたような担当者との適切な折衝と同時に、交渉のタイミングを見計らう必要があります。押さえるべきポイントとしては、次の点があげられます。

‡@ 銀行の決算期に配慮する
 これは、決算期が繁忙で、交渉の時期として不適当だという意味ではありません。

 銀行の業績評価は、上期と下期の半期毎に行われます。支店は本部から示される目標に従って営業活動を行いますが、営業推進計画は前期の早い時期、つまり上期分は2月末、下期分は8月末をメドとして作成されます。

 企業としては、このような銀行の事情を考慮し、翌期の資金調達がまとまった金額になる場合は、当期中に念押しをしておくといった配慮が必要です。

 この時期、銀行に時間的余裕を与えることは、自社の資金繰りの余裕にもつながるものと認識し、交渉のタイミングを図ることが重要です。

‡A 訪日程に配慮する
 銀行との交渉を効果的なものにするには、訪問日程にも配慮することが必要です。

 金融機関の繁忙日である5・10日、月末・月初、連休明け、月曜日などは基本的には交渉に向いてはいません。

‡B 訪問時間に配慮する
 訪問時間については、会議の多い朝一番、あるいは交代により手薄となる昼食時よりも、午後一番が適しています。しかし、午後3時の閉店時間にかかる訪問は、担当者も落ち着かず逆効果になることもあるので注意が必要です。

‡C 日程・要件を予約する
 企業も銀行も仕事である以上、基本的にはいつ交渉を行っても問題はないとはいうものの、交渉に当たっては日時を予約し、時間を要する案件については、あらかじめ時間調整を依頼しておきたいものです。幹部の同席を希望する場合は尚更です。

 また、資料等の準備が必要な場合には、あらかじめ打ち合わせておくぐらいの配慮が必要となります。

‡D その他
 懇親会やゴルフ会などの職場外での交渉事は、逆効果になることが多いので注意が必要です。銀行は、このような企業との懇親の場を敬遠するようになり、企業の不利益を招くことにもなりかねないからです。

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