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第19回 社内外注

 最近「社内外注」という言葉をよく耳にする。本来は工場の一部を間借りしてその間借りした会社の仕事の下請けをするというのだが、最近は脱サラのSOHOとして出来高払いの賃金を支払うことや、リストラの一種で正社員を減らし契約社員を増やす一つの方法として用いられている。

 最近の社内外注のあり方について文句を付ける余地はないのだが、税務調査の場面では社内外注の扱いで問題になることが多い。

コンピュータオペレーターの場合

 大森製作所は製本の機械を製造する社員20人程の小さな企業。企業というより、町工場といった方が相応しいような製造業である。
 社員20人のうち5人は社内外注の人であり、正確にいうと正社員は15名である。そして、5人の社内外注のうちの一人はコンピュータオペレーターをしている。
「社内外注をしている山本芳子さんの住所とか生年月日の分かる書類を見せてください」調査官はこんな要求から社内外注の調査に入った。

「社員と同じものですが、これでいいでしょうか」経理部長はこう言いながら労働者名簿を提示した。
「確かタイムカードがありましたね。見せてください」
「タイムカードですか……」なぜタイムカードを要求するのかが分からず、経理部長の語尾はあいまいとなった。だが、調査官の次の言葉でその意図することが分かった。
「山本さんは社員ではありませんか。支払いは外注費になっていますが、給料ですよこれは」
 外注費でも給料でも損金には変わりはないのだが、給料であれば源泉所得税が課税できる。調査官は社内外注費の実質は給料ではないかと見ているのだ。
「外注費です。コンピュータのオペレーターですから」
「大型のコンピュータなら分かりますが、パソコン1台ではありませんか。しかも労働者名簿が作られています」
「それは便宜上作ったものです。社員という意味ではありません」
「タイムカードもありますから、社員です」
「それは出勤を管理しているのではなく、オペレートした時間を管理しているのです」経理部長は外注費を給料扱いされたら面倒なことになるとばかりに反論する。
「それは日給や時間給と同じではありませんか。契約書はどうなっているのですか」
「契約書は作っていません。口約束です」
「日給は1万円ですね」
「1日のオペレート料です」
「残業は1時間1500円ですね」
「超過料金です」
「時給計算や日給計算と同じではありませんか。これは外注ではありません。第一、何を外注に出しているのですか」
「ですから、コンピューターのオペレートです」
「決まった仕事ですか。見積とか請求とか」
「何でも頼んでいます。コンピュータに関することは」
「外注というのは業務の委託をすることです。定まった業務のない外注はありません」
「ですから、コンピューター業務全般です」
「先ほどここにお茶を運んでくれたのが山本芳子さんですよね。ということはお茶くみも委託しているということですね」
「まぁ、そうかもしれません」
「電話にも出ていましたね。社員とまったく同じではありませんか」
「いいえ、山本は失業保険も社会保険も加入していません。保険は山本個人持ちです。社員とは違います」
「夏と冬に山本さんの外注費が多くなっているのは賞与なのではありませんか。日給計算が合いません」
「はあ…… 特別の外注費なんです」
経理部長に勝ち目はない。第一にパソコン1台のオペレートを外注に出すということ自体が常識を外れている。常識を外れたものはどんな理屈を付けても受け入れられない。
 経理部長は、オペレーターは社会保険に入ってないから社員ではない、だから外注費になると主張するが、社会保険の加入状況だけで判断されるものではない。フリーターやパートは社会保険に加入していない人が大半だ。
「夏と冬の特別の外注費」は社員である証拠だ。外注費に賞与はない。大森製作所はコンピュータのオペレーターを雇っているのではなく、山本芳子を雇っているのだ。

溶接工の場合

「青木一郎さんは溶接工ということですが、溶接の機械などはどうされているのですか」
「当社のものを使用しています」
「青木さんの個人のものは無いのですか」
「社内外注ですからありません」
「青木さんはここに手ぶらで出勤し、仕事をしているのですね」
「そんな感じです」
「サラリーマンじゃありませんか」
「外注です。出来高払いの外注です。社員とは違います」

「請求書を見ると日当計算しているところもあります」
「工場の清掃や製品の研磨は日当計算しています」
「溶接工が研磨をするのですか」
「溶接の仕事は毎日ありませんので、やらせています」
「社員と同じ使い方ではありませんか」
「青木は自由です。金が欲しければ清掃も研磨もしますが、そうでなければ休んでしまいます」
「パートのようなものですね」
「パートではありません。外注です」
「外注なら外に出すべきではありませんか。なぜ溶接工が出勤してくるのですか」
「大きくて重い製本機を溶接のために運搬したら、それだけで利益が飛んでしまいます。ですから、ここに溶接工が来るのです」
「青木さんは他の会社にも行っているのですか」
「詳しいことは分かりませんが、当社だけだと思います」
「大森製作所の専属ということは社員ということです」
「専属ではありません、結果的にそうなっているだけです」
「実は青木さん個人の申告を調べたのですが、青木さんは大森製作所からの給料をもらっていると申告をしています」
「当社は外注費で支払っています」
「青木さんは給与と認識しています」
「その方が税金が得だからでしょう。青木の申告と当社の経理は関係ありません」
「申告は一致していなければなりません」
「青木の方の申告を直せばいいじゃありませんか」
「そうでしょうか、青木さんから出された請求書は給与支払い関係綴りに綴じられていますから、会社も経理部長も給与と認識しているのではありませんか」
「それは支払日が給料日と同じなので一緒に綴っただけのことです。給料という意味ではありません」
 調査官らしい見方だ。給料と同じ綴りに社内外注の請求書が綴じられているなら、大森製作所側に「社内外注は給料」という認識があったと見ることはできる。調査官の言う通りだ。しかし給料の認識があったことと支払いが給料に該当するという事実はイコールではない。
 また調査官は、個人の申告では給料になっているから給料だと言うが、この点だけで判断することはできない。外注費であるのか、給料であるのか判断要素は数多くあって複雑に絡んでいる。
 多くの場合、社内外注者は賃金労働者と同じように、個々の機械や工具を所有していないから、社員と同等に扱われる傾向にある。委託費用の計算方法、指揮監督の方法、時間的拘束の有無、損害賠償の有無、再外注の可否などを明記した契約書を交わすことが、税務署とのトラブルを無くす方法である。

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