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第10回 米国における税務行政 その5(IRSの改革について)

I 歳入庁(IRS)再編成改革法

 IRSの腐敗の原因は、IRSの中に常設の監視機関が存在しなかったということでした。そこで議会は1998年に「IRS再編成改革法」を制定し、IRSの機構の組織と手続の再編成を断行しました。

1 組織の改革
 第1に監視機関として、IRS内部に「監査委員会」を設置することとしました。この監査委員会では、IRSに対する独立性のある常設の監視機関として位付けられ、委員を9名とし、その任命は大統領任命とされました。さらに委員の構成は、民間人6名、その他3名とだれ、その他3名は財務長官、IRS長官及びIRS職員組織代表の各1名をもって構成されることとされました。

 第2に、IRS内部の管理としての大統領任命職の主席顧問(財務省からの出向)とIRS長官については、IRSの不祥事に対応するために、従来の任期を3年から5年に延長する事とされました。

 第3に、IRSの執行部門については、ハイレベルの執行部門が申告監査に干渉する事は違法とされました。また、職員の調査分担が地域別から納税者別に改められました。

 第4に、地域に「全国納税者保護委員」の制度を設けることとし、該当委員は、監査委員会推薦により財務長官が任命し、オンブズマンとして納税者援助命令及び年次活動報告をIRS長官に報告することとされました。

 この報告を受けて、IRS長官は苦情目録を議会(財政委員会)に提出することとされています。

2 手続きの改革
 第5に、IRS職員の納税者に対する調査などのあり方については、納税者の権利保障の視点から申告、調査・徴収及び争訟の3つに分けて次のような点を規定しました。

A 申 告
a 電子申告 … 納税者の申告期の混乱に配慮して電子申告を制度化する。

b 障害者等の救済 … 提出期限・書類等の緩和

c 利息と制裁金の取扱い … 過剰納付と過少納付の重複期間における利息差額の排除

B 調査・徴収
a 電子申告 … 納税者の申告期の混乱に配慮して電子申告を制度化する。

b 障害者等の救済 … 提出期限・書類などの緩和

c 利息と制裁金の取扱い … 過剰納付と過少納付の重複期間における利息差額の排除

C 争 訟
a 合意更正手続の改正 … 合意により3年の更正期間を10年に延長する規定の排除

b 立証責任の改正 … IRS長官の有利な推定に対して納税者が、信用できる証拠を提出した場合には、財務庁長官が立証責任を負う。

c 勝訴費用等の取扱い … 納税者の勝訴費用を弁償する基準を10,000ドルから50,000ドルに引き上げ。

  このように米国におけるIRSの改正は、おおむね1998年の「IRS再編成改革法」で組織づくりができ、後でこれが適正に実行されるかという執行の段階ということができます。そこで次回からは、行政処分に不服な税務訴訟と納税者の権利保護いついて説明します。

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