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第5回 「収益の通則……固定資産の譲渡収益」税理士 徳丸 親一

 今回のテーマは、「収益の通則……固定資産の譲渡収益」です。原則として、固定資産の譲渡による収益の計上時期は棚卸資産と同様に引渡しの日とされています。しかし、土地、建物等不動産の場合には、引渡しの事実関係が外形上明らかでないことが多いことなどの理由から、弾力的に取り扱われています。そこで、ここでは固定資産の収益の計上時期を中心に解説を行います。

【土地売却代金の一部受領と収益計上】
 当社は、平成13年2月10日に工場一部を取り壊して更地にした上で、A社に500,000,000円で譲渡しました。その引渡しの日は、平成13年5月31日として契約しました。当社の資金繰りの都合上、引渡し前の平成13年3月末日までに、譲渡代金のうち、60%相当額の300,000,000円を受け取ることになりました。当社の決算期は3月末日ですが、決算対策の都合から、この譲渡収入を翌期の収益として計上するつもりですが、税務上、このような経理処理は認められるでしょうか。

固定資産の譲渡による収益の額は、原則として、その引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入します。

 ここで問題となるのは、引渡しの日がいつであるかについてです。はっきりしている場合は良いのですが、その引渡しの日がいつであるかが明らかでないときは、譲渡をした固定資産が、土地又は土地の上に存する権利である場合、次に掲げる日のうち、いずれか早い日にその引渡しがあったものとすることができます。

‡@ 代金の相当部分(おおむね50%以上)を収受するに至った日‡A 所有権移転登記の申請(その登記の申請に必要な書類の相手方への交付を含む)をした日 事例のように、譲渡代金のうち60%相当額の300,000,000円を収受した場合は、その日において収益の計上が強制されることにならないか、という疑問が起こります。

 しかし、譲渡代金の決済状況は、引渡しの日を判定する一つの要素に過ぎず、他の事実関係によって引渡しの日が明らかであれば、その事実関係に基づく引渡しの日が収益を計上する日となります。

 事例の場合は、工場を取り壊し更地にした上で、平成13年5月31日に引渡しを行うことにしており、代金のうち60%相当の金額を収受した場合でも、買手が、平成13年3月末日までに明らかに使用収益を開始していない限り、3月末日の決算期には収益に計上する必要はありません。

 ちなみに、売買代金のおおむね50%以上を収受した日を引渡しの日とするのは、山林や原野等の土地取引について、計画区域の全面買収を停止条件とする、いわゆる「一面土地条項」に対する取扱いで、通常の不動産の販売についてまで、一般的に適用するものではありません。この取扱いは、あくまでも山林・原野のように、一般の例によっては引渡しの日の判定が困難な場合で、しかも実態的にはすでに引渡しが行われて、収益も実現しているにもかかわらず、長期にわたって受け入れた代金が仮受経理とされ、課税上も弊害が生ずるというようなケースについての取扱いです。

【2以上の土地の譲渡と収益計上時期】

  当社(12月決算法人)は、当期中に甲社宅用地をA社に500,000,000円で売却する契約を締結し、期中に手付金10,000,000円を受領しました。この甲社宅用地は、従業員を退去させ住宅を取り壊し整地した上で、翌期になってからA社に引き渡すことにしています。

 また、当社は、同じく当期中に乙工場用地の一部もB社に300,000,000円で譲渡する契約を締結し、期中に手付金50,000,000円を受領しました。この乙工場用地の一部の引渡しは、工場を取り壊し整地した上で、翌期になってからB社に引き渡すことにしています。

 ところで、当社は、決算利益の関係から甲社宅用地の譲渡収益のみを当期の収益に計上し、乙工場用地の一部の譲渡収益については翌期の収益に計上しようと考えています。このように、同一事業年度における2以上の譲渡契約を行った場合には、一方は、契約基準により、他方は、引渡し基準によって収益の計上を行うことが税務上、認められるでしょうか。

譲渡した固定資産が土地、建物その他これらに類する資産である場合において、法人がその固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日の属する事業年度の益金の額に算入しているときは、これを認めることとされています(法通2―1―14)。

 事例のように、棚卸資産に該当しない単発的・臨時的な固定資産の譲渡の場合には、必ずしも好ましい処理とはいえませんが、法人税法上、契約の効力発生の日による収益計上基準を認めている以上は、代金の入金状況の相違に応じた会計処理を、積極的に否認するということにはなりません。

 もっとも、事例の場合の土地等がいずれも棚卸資産である場合や、同一の譲渡契約に係る土地等である場合には、異なる収益計上基準で経理処理すると否認されますので、注意が必要です。

 

【譲渡担保の場合の収益計上】

 当社は、事業を継続するために、工場を担保に金融業者から資金を借り入れることになりましたが、現在の当社の経営状態では、この工場の名義を変更し、譲渡担保の方法であれば融資をするとの条件提示がありました。そこで、当社がこれまでどおり工場を使用することを条件に、融資を受けることになりました。

 税法上において、譲渡担保の融資を受ける場合、一定の条件をクリアーすれば、譲渡所得の課税を受けずに済むとの話を聞きましたが、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。

債務弁済の担保として固定資産を債権者に形式的に譲渡するいわゆる譲渡担保は、実質的に判断した場合、契約条項により取引が行われる以上、固定資産の譲渡ではなく担保を提供したことと変わりがありません。形式的には、譲渡の形態をとりますが、これは抵当権を設定して金銭を融資した場合、もしも、その貸付債権の弁済が滞りこの回収を図るために、担保権を実行して担保物を換価する時には、煩わしい手続を要し大変困難な事務手順が必要になります。このため、前もって固定資産の所有権移転登記を行っておき、貸付債権の弁済が完了したときは、所有権を元に戻します。もしも、その貸付債権の弁済が滞りこの回収を図る必要があるときは、契約に従い換価(売却等)して、貸付債権の弁済に充当することになります。

 税務上はその実質的な点に着目して、契約書において次の‡@~‡Aのすべての要件を明らかにし、かつ、債務者が所有権を移転登記後も、自己の固定資産として経理するとともに引き続き使用している場合には、その譲渡はなかったものとして取り扱うこととされています。つまり、譲渡自体が形式的なものであり、譲渡担保の対象になった固定資産の引渡しがないわけですから、債務者が従来どおり固定資産として経理処理を続けるとともに、決算に際しては減価償却を行います。

<要件>‡@ その固定資産をその法人が従来どおり使用収益していること。‡A 通常支払うと認められるその債務に係る利子又はこれに相当する使用料の支払に関する定めがあること。 しかし、その後において、上記の要件のいずれかを欠くに至った場合や、債務不履行のためその弁済に充てられた時は、それらの事実が発生した時点に、本来の譲渡があったものとして取り扱われます。

 この場合の譲渡価額は、これらの事実の生じた時点の価額によることになります。

(注) 形式上買戻し条件付譲渡又は再売買の予約とされているもので、上記‡@~‡Aの要件を満たしている場合は、譲渡担保に該当します。

 固定資産の譲渡による収入金額の計上時期は原則として引渡基準によります。 しかし、いつその固定資産を引渡したかの判断は、所有権移転の登記の日、譲渡代金の決済状況、相手方の使用収益状況を総合的に勘案して判断することが大切です。

 なお、棚卸資産である土地等については棚卸資産の引渡しの判定(法通2―1―2)の取扱いが適用されるので注意が必要です。

6:収益の通則……有価証券の譲渡損益