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連載3 II 資金繰りの実態を点検しよう(1)

1 何が何でも資金繰り

(1)資金繰りと損益計算の違い
 「こんなに利益が出ているのに、現金がないのはどういうわけか?」、「利益は何に化けてしまったのか?」、「黒字倒産などというのは、どう考えてもおかしい」といった質問が、経営者からよく出ます。「勘定合って銭足らず」といいますが、実際の経営では決算の数字が黒字でも、資金繰りの都合がつかずに黒字倒産ということもあります。逆に、赤字決算でも資金繰りさえ上手にコントロールすれば、倒産をしないで済みます。

 よく損益計算は野球の試合に、資金繰りはボクシングの試合に例えられます。損益計算は6ヵ月なり12ヵ月の計算期間がありますから、仮に11ヵ月が赤字であっても最後の1ヵ月で多くの利益をあげ、通期の利益を黒字にすることが可能です。これに対して資金繰りは、1日の資金不足も許されません。ゴングが鳴り、飛び出したところでノックアウトです。明日1,000万円の入金があるとしても、今日100万円の支払手形が決済できなければ一巻の終わりです。うっかりしていました、では済まされないところに資金繰りの怖さと厳しさがあります。

(2)資金繰りと損益計算のズレ
 それでは何故こうしたズレが起こるのか考えてみます。

 ご存知のように、決算書の主なものは貸借対照表と損益計算書です。貸借対照表は決算日現在の財政状態を示す計算表です。一方、損益計算書は一定期間の営業成績をあらわす通知表のようなものです。しかし、損益計算は会計の基準が「現金主義」でなく「発生主義」によっているので、営業成績はわかっても資金繰り状況をつかむことは出来ません。代金回収が不調であったり在庫品や固定資産が増加すれば、利益があっても資金繰りがラクになるとは限らないわけです。

2 自社の「資金繰り簡易診断」

(1)早期発見・早期治療で健全な体力づくり
 経営は人間の体と同じで、健康のときもあれば病気がちの場合もあります。風をこじらせて肺炎にならないように、早めに治療する必要があります。

「自分の会社は自分が守る」。自社の資金繰りの状態は果たして健全なのかどうかを定期的にチェックして、警戒信号を素早くキャッチすることが大切です。真因を突き止めることができれば、適切な処置により早期回復が可能となります。

 それでは表1の資金繰り簡易診断表に基づいて、自社の健全度合をチェックしてみましょう。

(2)簡易診断の評価
 合計点を集計し、点数に応じて評価をします。30~50点は注意信号、51~70点は赤信号、71点以上は危険信号ですので早急な対策が必要です。

 資金繰りが詰まってきますと、ベテラン経営者といえども日頃の冷静さを欠いて判断力が鈍ってきます。いつもなら思いつくアイデアやひらめきも、なかなか浮かんでこないものです。こんなときこそ周囲のブレーンや専門家、その他の協力者の知恵を借りる勇気が必要となります。

(3)症状別資金繰り改善策
 自社の状況が把握できたら、次に当面の打つべき手を考えます。3つの症状に分けて、それぞれ思い当たる項目別に改善策を検討します。ここで重要なのは、優先順位をつけることです。あれもこれもでなく、あれかこれかに重点を絞り、当面の課題に集中して取り組み、その対策を実行することが健全化への近道となります。

 ‡@ 赤字経営が原因の場合
  ア 売上増加(単価×数量)の対策は考えたか?
  イ 粗利益高と粗利益率の改善目標はいくらか?
  ウ 仕入原価・製造原価の削減はできないか?
  エ 在庫の圧縮対策は検討たか?
  オ 営業利益額と営業利益率の目標は決めたか?
  カ 人件費は固定部分と変動部分を組み合わせて決めているか?
  キ 人件費以外の経費節約は具体的に実行しているか?
  ク 支払利息は売上高の何%か、前期に比べ増減傾向はどうか?
  ケ その他の対策

 ‡A 売上債権・在庫が原因の場合
  コ 得意先別に売上債権管理・与信管理は行っているか?
  サ 売掛金回収の早期化をはかっているか?
  シ 回収内容(現金・受取手形・売掛金)で客の選別をしているか?
  ス 適切な在庫量・在庫回転率はつかんでいるか?
  セ 目標売上高と連動して在庫量と仕入高を決めているか?
  ソ 実地棚卸を定期的に実施しているか?
  タ 仕入先の見直しと新規開拓に積極的に努力しているか?
  チ その他の対策

 ‡B 買掛債務・経費・借入金返済が原因の場合
  ツ 売上債権の回収期間に見合った支払サイトになっているか?
  テ 支払手形は圧縮するよう努めているか?
  ト 交際費・交通費・広告宣伝費や消耗品などの削減はどうか?
  ナ 事務機器など設備リースの利用を比較検討したか?
  ニ 低利融資への借換えは交渉してみたか?
  ヌ 短期借入金を長期に変更できないか?
  ネ その他の対策

 以上、自社の抱えている課題と改善策については、概ね確認できたと思います。

 各々の改善実行具体策については、今後このシリーズのなかで、実践的な提案をしていきたいと思います。

4:資金繰りの実態を点検しよう2