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連載2 銀行はあなたの会社のここをチェックしている(2)

3 銀行の「企業格付けリスト」の内容

(1)銀行の企業選別が進む

 「貸し渋り」に対する社会の厳しい批判もあり、銀行の融資姿勢は表面的には小康状態にあるといえます。しかし、銀行側の都合だけで突然融資が受けられなくなるのでは、という恐怖を常に感じている中小企業の経営者は多いと思います。相次ぐ銀行の合併で、営業地域が重なる支店はどちらかが閉鎖されるといったことを目のあたりにし、こうした不安を一層助長しています。

 経営状態が一定基準以下の貸出先を切り捨て、優良顧客だけを残すという銀行の顧客選別化の動きは、今後、加速していくものと思われます。その理由としては、次のような要因があげられます。

‡@ ペイオフの実施時期が近づいている
 ペイオフの解禁は2002年4月、企業取引などに使われる決済性預金については2003年4月から実施されることになり、それまでに銀行自身の財務内容を健全なものにしなければならない事情があります。

  ペイオフが実施されますと、銀行が倒産した場合の預金の払い戻し保証額は、今までの無制限から1,000万円となってしまい、不良債権を大量に抱えた銀行からは預金者がお金を一斉に引き上げる行動に走ることになります。これを避けるために、銀行としてはペイオフ解禁までには、不良債権を早急に片付けておく必要がある訳です。

‡A 不動産担保価値が下落している
 土地の価格が9年連続で下落し、不動産担保の目減りが発生した結果、追加担保が設定できずに不良債権化するケースが急増しています。

  不良債権処理額の約2割は、担保不動産の下落による二次損失といわれています。都市銀行が抱える不良債権の担保・保証額は総額6兆円を超えており、大半は不動産担保です。地価がさらに1割下落しますと、約6千億円の不良債権処理が新たに必要になります。

  大手16行が9月中間決算で処理した不良債権額は当初見込みより8割増となり、本業の儲けを示す業務純利益を上回りました。株式の売却益を処理費用に充てて利益を確保している状況です。保有株式の含み益が大幅に減少する中で、不良債権処理が銀行収益を圧迫し続けることは間違いありません。

  融資を受ける企業側としては、こうした「貸し渋り」から「顧客選別化」への流れの中で、是が非でも銀行に切り捨てられないための具体的な対応策を早急に検討し、実行に移さなければなりません。

(2)銀行融資の基本とは
 通常、銀行は以下のような判断基準に基づいて、融資の可否を決めています。

‡@ 貸出先の実態把握
‡A 貸出先の将来性把握
‡B 貸金使途の把握
‡C 回収見込みの把握
‡D 担保の完全徴求
‡E 保証人追求体制の確立

 当然ながら、貸付金が無事回収できるかどうかに審査の主眼が置かれます。普通の場合、不動産担保と第三者保証人が要求されますが、中小企業経営者の多くは個人保証を銀行に差し入れています。いわば、後に引けない背水の陣で経営に臨んでいるわけです。銀行が担保も人脈も無いベンチャー企業を積極的に育成・支援していくような、リスクの高い商売に手を出すのは限定的なものであり、担保主義の審査体制は当面、変わることはないでしょう。

(3)あなたの会社はここをチェックされている
 取引銀行は日頃、あなたの会社のどのようなところに目を光らせているか、某銀行の貸出審査資料を参考に、そのチェックポイントをあげてみます。

‡@ 業種・業界の先行きは大丈夫か
‡A 関連会社の業況は悪化していないか
‡B 徴収資料に異常な点はないか
‡C 当座勘定の仕振りに変な動きはないか
‡D 借入の申込みが不自然ではないか
‡E オーナー等経営陣に不自然な動きはないか
‡F 悪い風評や不自然な動きはないか
‡G 不動産の担保価値は妥当か
‡H 経営計画が十分に検証できるか
‡I 問題先への対応は万全か

 以上の10項目の中で、「不自然」という言葉が3回出ていることに注目して下さい。銀行が一番警戒しているのは、貸出先企業の普通とは違う不自然な動きです。特に、企業経営の命運を握っている経営者の動向には、神経をとがらせているといえます。

(4)格付けリストの内容
 銀行は融資適格性を判定するために、「財務評価」と「非財務評価」の2種類の評価を数値化し、総合評価を実施します。そして、総合評価の点数で取引先企業の格付けと今後の取引方針を決定します。

‡@ 財務評価
  財務評価は貸借対照表や損益計算書などの決算書に基づいて、安全性、収益性、成長性、総資産回転率の4項目を分析します。安全性は返済能力、成長性は主に売上高の伸び率をチェックします。合計点数はABCDEの5ランクに分類されます(図表1)。

‡A 非財務評価
 非財務評価は定性的な評価を、敢えて数値化するものです。評価項目は、経営者、含み資産、取引効率、保全度合の4項目です。取引効率とは、融資を含めた総合的な取引状況のことで、給与振込み、役職員取引、預金協力などの企業の協力度が評価されます。合計点数は財務評価と同様、5ランクに分類されます(図表2)。

‡B 総合評価
 財務評価と非財務評価を合計した評点です。財務評価100点、非財務評価100点の合計200点満点で評価し、合計点に応じて5ランクに分類されます(図表3)。

‡C 格付けと取引方針の決定
 総合評価で評価された5つのランクごとに企業を格付けし、今後の取引方針を決定します。

 150点以上はAランクの優良先として積極的に取引拡大を図る先、135点以上のBランクは今後も前向きな対応を図る良好先、110点以上は条件付で取引拡大を図る一般先、70点以上は現状の与信額で対応する消極先、そして問題となるのが70点未満の退却方針とする警戒先です(図表4)。

 ただし、銀行によっては格付けを10~15区分に細分化しているケースもあります。

‡D 格付けへの対応
 融資を打ち切られないためには、何としても総合評価で70点以上を確保しなければなりません。黒字企業ならともかく、2期以上赤字を続けている企業は要注意です。対策としては、非財務の経営者の項目で出来るだけ高得点をあげることです。そのためには、決算が終ったら経営者が自ら銀行に出向き、決算内容の報告をきちっと行うことです。そして、前向きな姿勢で今年度の事業計画と実行対策を説明できれば、良い評価を受けられます。借りるときだけ頭を下げて、あとは知らん顔では経営者の評価は下がるだけです。

3:資金繰りの実態を点検しよう