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連載1 銀行はあなたの会社のここをチェックしている(1)

1 依然厳しい企業経営の実態

(1) 7割の法人が赤字経営
 国税庁の資料によると、全国の法人数は平成12年6月30日現在約286万社で、そのうち約7割の法人が申告ベースで赤字経営となっています(図表1)。

 法人の構成は株式会社、有限会社、合資会社、合名会社の合計で、個人経営は含まれていません。赤字会社の割合は前年に比べると0.9%減と改善はしていますが、企業経営は依然として厳しい状況にあるといえます。

 ちなみに、平成11年度における黒字企業の1社当たりの所得金額は約4,600万円、赤字企業の欠損金額は1,500万円で、それぞれ前年比で若干の改善がみられます(図表2)。

(図表1) 法人数の状況

項目/区分

平成11年6月30日

平成12年6月30日

法人数

2,820千社

2,855千社

(図表2) 申告の状況

項目/区分

平成10年

平成11年

黒字申告割合

31.6%

30.7%

赤字申告割合

68.4%

69.3%

黒字申告1件当り所得金額

39,808千円

45,976千円

赤字申告1件当り所得金額

17,233千円

15,490千円

 赤字法人約200万社のうち3割の60万社は、営業収支段階で赤字を計上し、残り7割の約140万社が経常収支で赤字を出しているといわれています。粗利益から人件費などの経費を含む販売・一般管理費を差し引いた営業収支は、企業の営業力を示すと同に借入金返済の大切な原資ともなるものですが、それが赤字ということは、借金に借金を重ねる自転車操業の状態といえます。

 また、経常収支は企業の製品力・営業力・金融力といった総合力を示す最も重要な計数で、営業収支から銀行に支払う借入金の利息や手形の割引料を差し引いたものです。約140万社が経常赤字ということは、半分近くの企業がこれに該当することになります。

 以上のことから、企業経営における現状の課題として、次の2つの点を指摘しておきたいと思います。

 1つは、借入金の重荷に苦しんでいる企業が多い、ということです。借金の限度は年商の30%が目安です。従って、これをオーバーしている場合は、早急に人件費を含めた固定経費の見直しや不要不急の固定資産の整理などを進め、借金体質を改善する必要があります。

 2つ目は、この消費不況のなかでも3割の企業が黒字を出し元気で頑張っている、という事実です。

 中小・零細企業に限っていえば、黒字企業の割合は2割といわれています。最近の傾向としては、業種間格差よりも企業間格差を反映しているケースが目立ちます。どんな不況業種といえども、1割程度の企業はその業界の元気印として黒字を計上し、注目されています。こうした企業間格差が生じる要因は経営に対するトップの取組み姿勢、つまり常に危機感をもって社内の改革・革新に真正面からぶつかっていく経営者の考え方と行動の差が、業績の明暗を分けているといえます。

(2) 企業倒産の急増
‡@  上半期の負債総額は過去最高
 そごうグループや信販大手のライフなど大型倒産が相次いだため、負債総額は前年同期比48.1%増の10兆9,000億円と、半期では史上初めて10兆円を突破し過去最高を記録しました。また、倒産件数も同19.6%増の9,473件と、戦後4番目の高水準でした(図表3)。これを1ヵ月平均にすると1,580件となり、不況ラインといわれる「1ヵ月1千件」を大きく上回っています。単純に計算すると、毎日53件、1時間に2件強の倒産が全国のどこかで発生していることになります。下期に入っても、千代田生命や協栄生命などの大型破綻が続いており、企業を取り巻く経営環境は依然として厳しい環境にあるといえます。


‡A  倒産の特徴
 急増する倒産企業の特徴を分析すると、次の3点があげられます。

ア 業種別では建設業が最多
 業種別倒産件数では、不動産業が前年に比べ減少したものの、建設、運輸、通信などすべての業種が前年同期比2ケタ台の伸びを記録するなど大幅に増加しました。特に、建設業は31.8%増の3,029件と、上半期としては過去最高を記録しました。

イ  特別保証制度による借入金の返済不能
 貸し渋りで資金繰りの悪化した中小企業への金融支援として、政府が2年前に始めた中小企業金融安定化特別保証制度の効果が薄れており、制度利用後に倒産した企業は前期比24.3%増と拡大しました。この制度は中小企業の約4分の3が利用していますが、借入れによって一時的な資金繰りの改善はみられたものの、業績が好転せず融資を返済できずに倒産する企業が急増していることを示しています。

ウ 老舗企業の倒産が急増
 創業30年以上の老舗企業の倒産件数が1,983社にのぼり、倒産企業全体に占める割合も21%と、過去最高となりました。バブル期の5%前後と比較すると、4倍以上も増加していることになります(図表4)。老舗企業が産業構造の転換や規制緩和による競争激化に柔軟に対応できなかったことが原因です。

  機械販売業の大阪補機製作所(1918年設立)や繊維卸業の藤井(1919年設立)などが代表例で、業種別では建設業や繊維業が目立っています。

 (3) 倒産の原因
  倒産の原因別では、販売不振や売掛金の回収困難などの「不況型倒産」が全体の75.2%を占めているといわれています。しかし、倒産の真因は販売不振などを引き起こした企業自身の足元にある、とみるべきです。

  過去に倒産の辛酸をなめた経営者が再起を期して勉強をしている「八起会」というグループがありますが、倒産の真因をヒヤリングし集計したところ、多い順に次の回答が得られたとのことです。

  ‡@ 経営者の驕り、能力の過信
  ‡A 社員教育の欠如
  ‡B 方針・計画の欠如
  ‡C 環境変化への対応の遅れ
  ‡D 新製品・技術開発の遅れ
  ‡E 家庭不和・同族経営の弊害
  ‡F 公私混同、経営哲学の欠如
  ‡G 決断力・実行力の不足
  ‡H 計数管理の甘さ
  ‡I ワンマン経営、反省心の欠如

  実際に倒産という修羅場をくぐった経験者だけに、冷静に分析していると思います。倒産の原因を環境や他人のせいにしないで、原因自分論の立場でしっかり反省しており、他山の石となりましょう。

2 資金繰りの重要性

 倒産の憂き目にあわないためには、手形や小切手を振り出さないことが最良の方策です。つまり、現金商売に徹することですが、現実には一朝一夕に実現できるものではありません。そこで資金繰りの重要性がクローズアップされるわけです。「勘定合って銭足らず」といわれるように、勘定は黒字であっても資金繰りを間違えれば倒産します。逆に赤字決算でも、資金繰りさえしっかりコントロールすれば、企業は存続できます。

 資金繰り管理で重要なのは、商売を取り巻く市場環境を甘く見ないということです。「悲観的に準備する」ということです。「晴れコース」でなく「雨コース」を想定した売上・事業計画と、それに基づいた辛めの資金計画を作成することが、健全経営へ向けての第一歩となります。

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