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第8回 米国における税務行政 その3(税務調査について)

III 米国の税務調査についての公聴会(1)

1 税務調査における職権乱用と公聴会
 IRS(内国歳入庁)の職員による職権乱用事件として明らかになったロジェスキー事件以来、税務調査に対する職権乱用の事例が、数多く米国議会に報告されました。

 そこで、米国議会は、納税者権利保障法の策定に着手するとともに、その実態を確認するために公聴会を開催しました。

 この公聴会は、米上院財政委員会の主催で1997年9月に3日間にわたって行われました。そうして、IRSの職員の職権乱用が、通常は国会議員と接触をもたない低所得者がその徴税の標的になっているとした苦情が多かったことから、それらの人に将来再び被害が及ばないように配慮されました。

 その光景は、かつてマフィア裁判の再現でした。報復を恐れる証人は、頭に黒いずきんをかぶり、ついたての奥での発言は、音声を人工的に変えて流されました。

2 公聴会における職員の証言内容
 公聴会における証言は、被害者のみではなく、IRSの現職職員と元職員6人も自ら進んで証言席に着き、犯罪組織ならぬれっきとした政府機関の腐敗と職権乱用を内部告発しました。

 証言で浮き彫りになったのは、民主国家の中で徴税テロをほしいままにするIRSの存在でした。「IRSは、気まぐれで税務調査は行い、事実無根の脱税容疑をでっち上げ、資産を違法に差し押さえ、盾突くものには報復する。新聞に批判的な投書を送っただけで査察が入った例がある。こうしたやり口で、IRSは不当に税を徴収している」と証言しました。唯一名前を明らかにして証言した元職員のジェニファー・ロングは「その結果、文字どおり家庭が崩壊し、事業はつぶれ、命を落とす場合すらある」と指摘しました。

3 公聴会における被害者の証言内容
 3日間にわたる公聴会のなかでは、被害者の証言も多く行われました。そのなかで、ニューズ・ウィーク誌がスクープした「税務署の弱い者いじめ」に掲載された被害者の証言は次のとおりでした。

‡@ デラウェア州で建築業を営むトム・サベージは、法的には何の責任もないのに、下請け業者が滞納していた税金の支払いを命令されました。彼が拒否するとIRS担当者は、司法省の忠告を無視して差し押さえの手続きを取りました。そのため彼は、その差し押さえに抵抗する事に係る法律費用と仕事の損失で総額70億ドルの被害を受けました。そうして「連中は、そんな被害にはおかないなしなんだ。また、差押さえは、恐らく徴税ノルマを達成するためだろうと思われる」と声を荒げて証言しました。

‡A カリフォルニア州の主婦キャサリーン・ヒックスは、帳簿作成の単純ミスが原因で、IRSに14年間も苦しめられたと泣き崩れました。そうして巨額の税金を請求され「疲労困憊し、夜もろくに眠れなかった。弁護士や会計士に相談しても『黙って払った方が安くつく』という助言だけで手数料を取られ、ついには離婚に追い込まれた」と証言しました。

 そうして、被害者の証言は「IRSは裁判官と陪審員と刑の執行人を兼ねている。誰も口出しできない」ということで一致しました。

 これらの証言に対して、特に徴税ノルマを達成するためにIRS担当者の職権乱用が行われているとすれば重大問題であること等から、IRS長官代行マイケル・ドーランが証言席に着くことになりますが、そのことについては、次回に述べることにします。

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