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第6回 「収益の通則・・・有価証券の譲渡損益」税理士 中川 祐一

 有価証券の譲渡損益は、「譲渡対価の額-譲渡原価の額」で計算します。

 譲渡対価の額は、特殊な場合を除いて、文字どおり譲渡した価額ですが、譲渡原価の額の計算には、少々面倒な計算が必要になります。そこで、今回は有価証券の譲渡原価の計算を中心に解説します。

個人が上場株式を譲渡した場合には、譲渡価額の1.05%の源泉分離課税と、譲渡利益の26%の申告分離課税との選択ができますが、法人にもこのような制度があるのでしょうか。

法人税には、源泉分離課税や申告分離課税のような制度はありません。有価証券の譲渡損益だからといっても特別な課税方法があるわけではなく、本業の損益と同様に法人税の計算をすることになります。

 法人の所得金額は、益金から損金を控除して求めます。有価証券の譲渡利益は益金、譲渡損失は損金に算入されることになります。

有価証券の譲渡原価はどのように計算されるのですか。

譲渡原価の額は、有価証券の「一単位当たりの帳簿価額」に譲渡した有価証券の数を乗じて計算します。

譲渡原価=一単位当たりの帳簿価額×譲渡した数

 ここで問題になるのは、「一単位当たりの帳簿価額」の計算です。たとえば、A社の株式を1株100円、150円でそれぞれ1,000株ずつ購入していたとします。この株を1,000株譲渡した場合に、その原価(単価)は、100円、150円のどちらにすればいいのでしょうか。

 この点については一定のルールが必要です。法人税法では、「移動平均法」又は「総平均法」のいずれかを選定し、その選定した方法により一単位当たりの帳簿価額(譲渡原価)を計算することとしています。

移動平均法や総平均法とはどのような方法でしょうか。同一銘柄の株式を次のように売買した場合、譲渡原価はそれぞれどのように計算されますか。

事業年度4月1日から3月31日
期首帳簿価額 2,000株 @220円
4月20日取得 4,000株 @160円
[8月10日売却 5,000株 @230円]
12月5日取得 3,000株 @240円

1:移動平均法

 移動平均法とは、銘柄を同じくする有価証券を取得する都度次の算式で平均単価を算出し、一単位当たりの帳簿価額とする方法をいいます。

(算式)

取得する直前の有価証券の帳簿価額+新たに取得した有価証券の取得価額
―――――――――――――――――――――――――――
取得する直前の有価証券の数+新たに取得した有価証券の数

(事例の譲渡原価の計算)

 事例のケースの譲渡原価は次のように計算されます。

220円×2,000株+160円×4,000株
――――――――――――――――
2,000株 + 4,000株

 = 180円

180円×5,000株=900,000円

2:総平均法

 総平均法とは、銘柄を同じくする有価証券について、次の算式で平均単価を算出し、一単位当たりの帳簿価額とする方法をいいます。

(算式)
期首における有価証券の帳簿価額+期中に取得した有価証券の取得価額の総額
―――――――――――――――――――――――――――――
期首における有価証券の数 + 期中に取得した有価証券の数


(事例の譲渡原価の計算)
 事例のケースの譲渡原価は次のように計算されます。

[220円×2,000株]+[160円×4,000株]+[240円×3,000株]
―――――――――――――――――――――――――
2,000株+4,000株+3,000株

 = 200円

200円×5,000株=1,000,000円

3:両方法のメリットとデメリット

 移動平均法は、同一銘柄の有価証券を取得する都度、平均単価を計算しなければならないため、売買回数が多い場合には計算が煩雑になります。しかし、譲渡時には一単位当たりの帳簿価額(譲渡原価)が計算されているため、譲渡の都度譲渡損益を確定することができます。

 一方、総平均法は、平均単価の計算は期末に一度だけ行えばよいので計算は簡単ですが、期末にならないと譲渡原価が確定しないため、譲渡時には正確な譲渡損益の計算ができないことになります。

 

一単位当たりの帳簿価額の算出方法(移動平均法又は総平均法)の選定手続きはどのようにすればよいのでしょうか。

1:算出方法の選定

 有価証券を新たに取得した場合には、移動平均法又は総平均法のいずれの方法で一単位当たりの帳簿価額を計算するのかを選定し、取得した事業年度の確定申告書の提出期限までに納税地の所轄税務署長に届け出ます。

 この届出をしなかった場合には、移動平均法が適用されることになります。このことから、移動平均法が法定算出方法とされています。

2:算出方法の変更

 一単位当たりの帳簿価額の算出方法を変更しようとする場合には、変更しようとする事業年度の開始前までに、変更の承認申請書を納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。

3:改正前から保有する有価証券

 有価証券に関する法人税の取り扱いは、平成12年度の税制改正で大きく変わりました。届出をしなかった場合の法定算出方法についても、改正前は総平均法だったものが、平成12年4月1日以後に開始する事業年度から移動平均法に変更されたのです。

 改正前から保有していた有価証券については、改正後最初の事業年度(改正事業年度)において取得したものとして取り扱うこととされています。

 したがって、従来から総平均法を採用している場合であっても、改正後に引き続き総平均法を採用するときは、改正事業年度の確定申告書の提出期限までに、算出方法の選定に関する届出をし直す必要があります。

 

当社は3月決算法人です。当期(H13・3月期)の3月30日に株式の売買契約が成立しましたが、株券を実際に引き渡したのは翌期の4月3日です。この株式の譲渡損益はどちらの事業年度に計上するのでしょうか。

有価証券の譲渡損益は契約日の属する事業年度において計上します。したがって、事例のケースでは、当期(H13・3月期)の損益となります。

 契約日に損益計上する旨が定められたのは、やはり平成12年度の税制改正においてです。改正前は引渡し時に損益計上するのが一般的でした。

 そこで、平成12年4月1日から平成14年3月31日までに開始する各事業年度においては、その間に譲渡したすべての有価証券について、引渡し日に損益を計上している場合には、従来どおり引渡基準による処理が認められることになっています。

 有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算定方法は、‡@売買目的有価証券、‡A満期保有目的有価証券、‡Bその他の有価証券の区分ごと、かつ、株式・社債等の種類ごとに選定します。

 ‡@~‡Bの有価証券の区分については今回は触れませんでしたが、この点は第11回「有価証券の評価」をご参照ください。

 なお、上場有価証券について認められていた低価法は、平成12年度の税制改正で廃止になりましたので留意してください。

7:費用損失通則……売上原価・販管費