ゼイタックス

第13回 事業の用に供した日

 4月1日生まれの人も早生まれに該当するという。4月1日現在の年齢で就学が決まるからだそうだ。一日違いで早生まれになったり、遅生まれになったり、いろいろなことが決められているものである。
 税金の世界でも同じようなことがある。1日の違いで脱税扱いになったり、ならなかったりすることがあるのだ。

車両を事業の用に供した日

 浜松金属は金属製品を回収(仕入)してリサイクル販売する会社。今回の調査では新規に購入した車両や機械の減価償却が問題となった。
「3月に車両を購入されていますが、これに関する契約書や関係書類を見せてください」
 浜松金属の決算月は3月。3月に車両の購入契約をしているが、実際の納車は翌期の4月だったのではないかと予期しての質問だ。
「自動車税や保険料など消費税の非課税項目はきちんとチェックできています。どうぞ見てください」
 経理部長は調査官が消費税項目を調査しているものと思い込んでこんな返事をした。
「納車の日が分かる書類は有りませんか」
「納車の日ですか、納車の日ねぇ。なぜ納車の日が必要なのですか」
「3月中に使用が開始されたことを確認したいのです」
「ああ、なるほど、そういうことですか。それでしたら車検証を見れば分かります」
 経理部長は調査官の意図することがやっと分かって車検証を用意した。
「車検証は車両の登録した日が記載されているだけで、使用を開始した日は記載されていません」
 車検証を見た調査官は、これでは証拠にならないと言う。
「車検証の登録日は3月29日です。ナンバーが付けば走れるわけですから、これ以上の証拠はないでしょう」
「契約書を見ますと、燃料タンクの増設と荷台の補強をする契約になっています。これらの改装は登録後にしたのではありませんか」
「登録をしたから当社の車になったのです。ですから改装ができたのです」
「改装を終えるまでは使用できなかったのではありませんか」
「改装をしたのは納車後の1週間ほど後です」
「そのことが分かる書類を見せてください」
「そのような書類はありません」
「例えば、燃料を入れた記録です。近くのガソリンスタンドと契約を結んでいるのですから、請求書の車両ナンバーから給油したことが分かるのではありませんか」
「別のスタンドで現金払いしているかもしれません」
 経理部長は現金払いの可能性があるとして調査官の提案を受け入れようとしない。調査官が言うように、燃料費の請求書で給油の事実が分かるのだから、これを見ようとしないのはおかしい。ということは、経理部長は購入した車両が3月中には使われていなかったことを知っているのだ。だが、調査官はこれ以上の追求はしなかった。言葉尻を捕らえた具体性を欠く追求は、更に曖昧な返答を導き出すだけだからだ。
 通常、車両の登録日が納車の日、すなわち事業の用に供した日となる。仮にそうでなかったとしても、こう推定するのが普通である。場合によっては任意保険に加入した日と考えることもできるが、それが絶対の証拠とはならない。
 浜松金属のように、購入車両に改装を加えた場合には事業の用に供する日は遅くなる。減価償却費は資産を購入した日からではなく、資産を事業の用に供した日から計上できるのであるから、車両の登録日により最初に給油した日の方が要点となるのだ。

機械の場合

「やはり3月末に金属粉砕器を購入されていすが、この機械の購入が分かる書類を見せてください」
「納品書や請求書はありますが、車両と違って登録されるものではありませんから、車検証のようなものはありません」
「検収したのはいつですか。検収が分かる書類を見せてください」
 検収とは、納品された機械が注文通りに稼動することを確認して引渡しを受けることをいい、通常は検収確認の書類が交わされる。検収を終えれば、自社の機械として事業の用に供したと判断することができる。
「検収はしていません」
「検収をしないのはおかしいですね」
「検収するような機会ではありませんから」
「なぜ検収しなかったのですか」
 調査官は4月になって検収をしたので、検収の書類を破棄したのではないかと疑っているのだ。
「先ほどの車両も検収していませんが、問題にならなかったではありませんか」
「車両は検収しないですから」
「この金属粉砕器も車両と同じです。検収するような機械ではないのです。トラックに積んで来てクレーンで下ろして据え付ければそれで終わりです。言ってみれば大きなシュレッダーですから、検収することはないのです」
「そういうものですかねぇ。まあ、機械のメーカーに照会すれば分かることですから……」
 調査官は歯切れが悪い。
「どうぞどうぞメーカーに照会してください。こう言っては何ですが、納品の日を偽るつもりなら、検収の書類まで偽って作成していましたよ。しかし、そのようなことをする必要はありませんし、するつもりもありませんから」
「金属粉砕器というのはどんな機械なのですか」
 調査官は話の方向を変えた。
「言いましたように、大型のシュレッダーです。アルミ缶やスチール缶をシュレッダーして粉状にし、送風機で吹き飛ばしてアルミと鉄とを分けるのです」
「最初からアルミ缶とスチール缶を区分していたら粉砕する必要はないのですね」
「その通りなのですが、缶のままでは区分する機械が大きくなりますし、運搬のコストが高くなってしまいますので、まとめてつぶして運び、後から区分しているのです」
「なるほど。ところで、この金属粉砕器を導入して新たな売上は発生したのですか」
「もちろんです」
「最初の売上はいつですか。売上帳には金属紛の売上と記入されているのですね」
 調査官は金属粉砕器が事業の用に供する日を確認するためにこんな質問をした。
「売上の発生は4月になってからです」
「3月の売上はないのですか」
「なかったと思います」
「そうしますと、事業の用に供したのは4月ですから、減価償却はできないことになります」
「3月には稼動していました。売上がないだけです」
「稼動していたのならアルミ紛や鉄粉の在庫が計上されているはずですが、それもありません」
 調査官の指摘は的を射ている。3月に金属粉砕器が稼動していたのなら、何がしかの在庫が生じていたはずだ。在庫の計上漏れということも考えられるが、金属粉砕器が稼動していなかったと考えるのが普通だろう。
 だが、機械が稼動していなかったことイコール事業の用に供していなかった、ということにはならない。機械がいつでも使用できる状態ならば、場合によっては、事業の用に供したことになる。端的な例を挙げれば非常発電装置がそうだ。据え付けが完了したすればそれを利用しなくても減価償却ができるのは言うまでもない。
 浜松金属は事業の拡大を狙って金属粉砕器を導入したわけだが、そこにはおそらく、機械の導入が先なのか、回収空き缶の受入(仕入)が先なのかという検討があっただろうし、地方自治体が回収する空き缶を買い取るには金属粉砕器の取得が条件になっていたということもあろう。
 事業の用に供するということは、機械が音を立てて動き出すということではない。いつでも受注に応じられる状態になること、いつでも機械を動かせる状態になることである。

14:資産の所得費