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第11回 米国における税務訴訟と不服申立てについて

1 不服申立てまでの経緯
 納税者は、提出期限までに申告書の提出を内国歳入庁(IRS)に行うことになります。その後IRSは、提出された申告書に調査の必要があるときは、その必要の程度により次の3種類の調査を行います。

 ‡@ 書類交換のみによる調査

 ‡A 税務署での面談調査

 ‡B 現場調査

 この調査による不足額に納税者が納得しないとき、調査官は、上司との面談をすすめます。この面談により不足額の納付について合意が得られれば、納税者は様式870(法定通知の放棄書)を提出します。このことにより、納税者は不足税額を納付する義務を負いますが、不足税額を納付したうえで、税務訴訟(還付請求訴訟)を提訴すこととはできるとされています。

 納税者が様式870の提出を拒否すると、法定通知としての不足税額の予備的通知書(この通知書は、一般に「30日レター」と呼ばれています)が、IRSからその納税者に送付されます。30日レターには、更正・決定処分の理由及び不服審査部に不服申立てができる権利があることが記載されています。

 納税者は、30日レターを受領してから30日以内に不服審査部に不服申立てを行わなければなりません。

 この不服申立ては、税務調査の種類及び不足税額の多寡により3種類の不服申立てに分かれます。

 1番目は、正式不服申立書によるもので、現場調査が行われた場合で不服対象税額1万ドル超の者が提出します。2番目は、簡易不服申立書によるもので、現場調査が行われた場合で不服対象税額が1万ドル以下2,501ドル以上のものが提出します。3番目は、口頭による不服申立てによるもので、現場調査が行われた場合で不服対象税額が2,501ドル未満の場合又は現場調査以外の調査に係る不服対象税額のすべてについて適用されます。

2 不服申立てに係る審査
 不服審査部の審査官は、調査官と異なり納税者と和解する権限があります。

 したがって、30日レターが過大であると判断すれば、それを是正することを条件に合意した上で、和解の証として納税者は様式870-AD(処分オヨに徴収に関する権限の放棄書)を提出し、その件については、訴訟を訴訟を提起することはできないことになります。

 逆に審査官が30日レターが適正だと判断すれば、納税者に様式870(法定通知の放棄書)の提出を求め、不足税額の納付を促すことになります。

3 不足税額の正式通知書(いわゆる「30日レター」)の送付と税務訴訟

 納税者が30日レターに対して不服申立てを行わなかったとき、あるいは不服審査部に対して様式870-AD又は様式870の提出をしないときは、IRSは、納税者に対して90日レターを送付します。90日レターには、更正・決定処分の理由及び納税者が90日以内に裁判所に訴訟を提起しない限り、不足税額が確定し、該当税額を徴収する旨が記載されています。

 すなわち、税務訴訟は、原則として90日レター送付後に提起されますが、例外的に不服審査部が6ヶ月以内に応じないときも提訴できます。また、30日レターに対して不服申立を行わず、90日レター受領後90日以内に直接訴訟を提起することができます。

 このように米国においては、訴願前置主義として不服申立てが法定化されていませんので、納税者が更正・決定処分に対して不服申立ての後に訴訟を行うか又は不服申立てを行わず直接訴訟を行うかは、納税者の選択に任されている点と不服審査官が、和解の権限を有している点にわが国との相違があることが分かります。

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