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連載13 IV 銀行との上手な付き合い方(1)

1 日常の付き合い方

(1) トップは定期的に銀行を訪問すること
‡@ 支店長は意外と取引先のことを知らない

 都市銀行の場合、一支店の貸出社数は小さいところで400社から500社、大きな支店では800社以上にものぼります。融資担当者1人あたりの担当は50社から100社にもなります50社から100社にもなります。

 会社によっては、旺盛な資金需要を背景にトップが頻繁に訪問するケースもありますが、多くの場合、年に1回、あるいは2回程度しか支店長や融資担当者に接する機会はないのではないでしょうか。

 銀行というところは、「社長にカネを貸す」という思想が根強く、業績が思わしくなく担保も十分ではないとき、貸出の諾否は社長への評価で決まります。社長とは決算書以上に、会社の将来を占うバロメーターなのです。貸出審査のときに、社長の顔が浮かばないようでは、銀行から思い通りに融資を引き出すことは難しいといえます。

 銀行取引においても、他の会社との付き合い同様、取引の基本は人と人とのコミュニケーションです。

 特に中小企業の場合、銀行担当者と経理担当者という「事務レベル」ではなく、社長と支店長というトップレベルの付き合いが融資を大きく左右することは間違いありません。

(2)支店長と太いパイプを持つには
 会社によっては規模に関係なく、歴代の支店長と親しくしているところが必ず何社かあります。これらの会社に共通していえることは、社長が支店長と接する機会を多く作っていることです。

 「ちょっと入金があったから」、「先月の試算表ができたので、ご報告しようと思って」、「半期が終わりましたので、中間決算をまとめました」など、理由は何でも考えられます。

 支店長と面談する際のポイントは次のようなことです。

‡@ 個人的なレベルで親しくなること
 共通の趣味はないか。出身校や共通の親しい知人はいないか。出身地や住まいなど、どんなことでもいいからお互いに親近感をもてるようなきっかけを見つけることです。

‡A 支店長の人物を確認
 面談の目的はこちらの内容を売り込むばかりではなく、相手を知ることも大事な成果となります。

 本部にばかり目が向いている人物なのか、取引先のことを第一に考える人柄なのか、あるいは会社が窮地にたったときに力になってくれる人物なのか、というようなことを見極めます。相性が良くない支店長の場合でも、決して顔に出さないことです。ケンカしても損をするのは取引先の方です。2年たてば転勤してしまいますから「うまくやる」ことが大切です。

‡B 社長が信頼できる人物であることをアピール
 経営に対する情熱や誠実さをしっかりPRすることです。また、話題の中で出たちょっとした約束事などは、必ず実行することが大切です。

‡C 資金需要を前もってアナウンス
 支店長との面談は、自社の資金需要を説明し融資を申し込む絶好の機会となります。面談中に、「実は」と切りだし融資担当者が呼ばれ、おおよその結論がその場で出ることもあります。

 優良企業ならば、黙っていても支店長の方から訪問します。普通の会社では、やはりこちらから働きかけて支店長との顔をつないでおくことが重要です。

 業績が悪くなってから、初めて社長が銀行を訪問してもあまり効果はありません。「なんでいまさら」とか、「業績が悪くなって、他行に見放されたのではないか」というような猜疑心が先にたちます。

 銀行員とは、本質的に他人を信用できない人種なのです。

(3)銀行が欲しがる情報を提供する
 銀行担当者の悩みは、多数の取引先の業績についての情報収集が、思うようにはかどらないことです。売上の推移、他行との取引状況、新しい資金ニーズについて、定期的にヒアリングするように本部や上司からいわれているのに、実際には目先の案件を優先しがちです。

 受注状況や今後の資金繰り予定、他行との取引状況の変化などの自社の情報を、どこまで開示するかについてはさまざまな考え方があると思いますが、これを「銀行に対して隠す」ものではなく「銀行には積極的に知らせる」ものと考えた方が、メリットは大きいといえます。

 銀行の融資現場では、しばらく貸出の案件がないと、つい取引先と疎遠になりがちです。融資担当者の仕事は貸出案件のある取引先が中心となるので、それ以外の取引先については余り目が向きません。「あの会社はどうしているか」、「受注は好調だろうか」といったことは気にはなりますが、なかなかヒアリングが出来ないのが実情です。

 そこで、表1のような業況日報を作成して定期的に提出します。このなかに、次のような内容を自社の情報としてコンパクトにまとめ、不足しがちな銀行とのコミュニケーションの大切な橋渡し役とすると効果的です。

‡@ 受注状況
 最新の受注残高確定分と今後の予想、大口のスポット受注があった場合は「つなぎ資金」需要の可能性も考慮して付記します。また、受注が減少している場合などは、その要因と対策などを簡潔にコメントし、悪い数字を上げっぱなしにしてはいけません。

‡A 資金繰り
 今月・来月程度の簡単な資金繰り実績・予定をあげます。支店では貸出残高の推移予測を立てますが、翌月の割引予定額や借入予定額をこれで把握できます。

‡B 他行取引の状況
 銀行ごとの割引・短期・長期資金の残高合計を記入します。銀行にとっては融資シェアーを確認するための大切な情報です。

‡C コメント
 特記事項があれば、付記して説明します。とくにスポット的な数字が大きい場合は、その理由を簡潔にコメントしておきます。

 こうした情報を定期的に提出することで、「しっかりした会社」というイメージを与える役割を果たすと同時に、新たな資金需要をアナウンスできるメリットもあり、予想以上の効果があります。

14:銀行との上手な付き合い方(2)