ゼイタックス |
||||||
![]() |
||||||
第7回 米国における税務行政 その2(税務調査について) | ||||||
![]() |
||||||
?K アメリカの税務調査における職権乱用 1 ロジェスキー事件における職権乱用 この事件の原告L(ジェリー・ロジェスキー)は、ボーイフレンドTとペンシルヴァニアの農場に住んでいました。IRSはTの1977年から80年分までの所得税について税務調査を実施しました。その結果、未納税額に加算税及び延滞利子を含め、24万7,000ドルの決定を行いました。この決定と同時にTの財産は差し押えられ、さらに、IRS担当官はTがLに財産を移転しているとしてLの農場及び銀行口座にも差押えを行いました。 この決定及び差押えに対して、Tは誤りであるとして審査請求を行いました。その結果IRSは、Tの主張を認め決定処分を取り消しました。しかし、Tはその間IRSの不当な処分と闘うために仕事を辞めたうえ、弁護士・会計士等に対して7万5,000ドルの支払いを余儀なくされました。そして、その出費のために全財産を失う結果となりました。 一方、当事者ではないLも、処分の取消しを求めて弁護士や会計士に3万ドルを出費しました。このためLは、この費用の弁済、農場の休業補償及び悪意あるIRSの行為に係る損害賠償等を求めて連邦裁判所に提訴しました。これに対して地裁判決では7万6,000ドルの賠償命令が下されましたが、控訴審判決では、IRS担当官の行為は、IRSの「課税手続における納税者の権利の尊重」という運営方針には反するが、税法に定められた手続を逸脱するものではないとの理由で訴えを認めませんでした。 この結果、IRS担当者の職権乱用は、当事者Tの全財産を失わさせたばかりか、当事者以外のLの損害賠償も認められない結果となりました。 すなわち、IRS担当者の故意による職権乱用は納税者のみならず納税者以外の関係者の権利侵害も救済できないこととなる司法消極主義については、法律改正で対処する以外に方法がないとして、議会が立ち上った端緒になったものが、ロジェスキー(L)事件です。 2 「包括的納税者権利保障法」制定(1998年10月) この法律の項目は、次のように多岐にわたって詳細に規定されています。 「納税者権利保障法(1998年)」の項目 1 税務調査・税務徴収手続に係る権利保障 (2)税務調査録音権 (3)税務調査の際の権利の告知、専門家と相談する権利 (4)税務調査の際の代理人依頼権 (5)租税徴収手続の適正化 2 税務調査・租税徴収手続の救済に係る権利保障 (2)信義則の適用 (3)納税者オンブスマンの設置 (4)争訟費用の償還 (5)税法上の損害賠償 (6)IRS納税者サービス担当副長官のポスト新設 そうして、この保障法に基づき「納税者としてのあなたの権利」としてIRSは、これに基づく宣言書を作成し、調査及び各種の課税処分を行うに当り納税者に配布することにしました。 これでも、IRS担当者による職権乱用はなくなりませんでした。このことについては次回に述べます。 |
||||||