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連載16 IV 銀行との上手な付き合い方(4)

3 どの銀行と付き合ったら良いか

(1)メーンバンクの意味
 銀行から見たメーンバンクというのは、大手企業・優良中小企業に対して、取引シェアや取引内容を判定し、その維持拡大を図る場合に使われます。銀行はこのような特定取引先の取引内容には敏感で、万一、取引シェアの減少、取引順位の後退などが起これば、支店長の責任問題にまで発展することもあります。

 しかし、一般中小企業となると話は別です。中小企業特有の事情により、結果的に特定銀行への取引集中や、一行取引となっている場合が多く、これは銀行からすればメーンバンクとはいえないのです。

 最近、「メーンバンクに裏切られた」「銀行は変わった」などの苦言がよく聞かれますが、銀行からみれば企業の一方的な思い込みに過ぎないわけで、基本的な考えは何も変わっていないのです。

 銀行の傲慢な態度に批判を加えることは自由ですが、現実問題としては新たな銀行取引を模索することのほうが大切です。

(2)身の丈に合った銀行を選択する
 これまでは、中小企業が都市銀行と取引することは、むしろ企業の対外的な信用力強化には効果的でした。都市銀行を取引の決済銀行とし、その小切手を振り出すことが支払いの信用力を高め、また融資取引があれば都市銀行の厳正な融資審査をパスしたとして、評価されたのです。

 しかし昨今は、都市銀行と取引している中小企業の倒産が、逆に目立つなどの皮肉な現象さえ発生しています。

 中小企業が、その取引内容と取引銀行の規模を冷静に比較検討すれば、自社の位置付けが明確になるはずです。

 これこそが、中小企業が今後の銀行取引を考える際にもっとも必要なバランス感覚といえます。いまこそ、身の丈にあった適切な銀行取引を選択する必要があるのです。

(3)事業内容に適した銀行を選択する
 企業の順調な経営維持のためには、銀行の支援は不可欠です。業務内容によっては、融資のみならず情報提供などの支援も必要となります。

国際取引が必要であれば、外国業務に強い銀行との取引が不可欠であり、逆に、もっぱら国内取引というのなら、必要な融資が得られる範囲で銀行を選択すればよいのです。

 また、大手企業の下請企業であれば、親元の大手企業の取引金融機関との取引を推進することも効果的です。

(4)資金計画に対応可能な銀行を選択する
 いわゆる成り行き経営で、その場しのぎの資金手当てを銀行に申し込む企業が少なからず存在します。これからの銀行取引では、こうした甘い考え方は通用しません。

 借入企業においても中長期的な視野に立った資金計画を作成し、量的な部分で対応可能な銀行を選択しなくてはならないのです。

 将来、数億円の資金需要が発生する見込みであれば、中小の金融機関では対応できません。逆に、数千万円程度の資金で十分との判断であれば、都市銀行とあえて取引する必要性は少ないのです。

(5)サービスの必要性で選択する
 都市銀行など大手銀行は、従来型の集金などの渉外業務からの撤退を実施しています。高い給料を支払ってまで集金などの顧客サービスを行うことはペイしないのです。また、リストラの根幹をなす人員削減を積極的に推進している状況では、人が足りなくて対応しようにもできないのが現状です。

 しかし、下位金融機関、特に信金・信組は依然として渉外重視の経営方針を変えてはいません。地域着金融機関として生き残るためには、多少のコストアップは戦略経費として考えています。

 取引企業の中にも、こうした下位金融機関の割高な貸出金利など都市銀行に劣る取引条件でも、そのサービスゆえに問題とはしないところが多いのです。

 中小企業のなかには、IT革命といわれるこの時期、旧態依然の渉外サービスなど不要で、ネットサービスなどを利用した銀行取引で十分だ、と考えるところも多いかもしれません。しかし、リストラで手薄となった人員を考えるとき、銀行の方から出向いてくれるありがたさは、単なる業務上のニーズ以上のものともいえます。フェースツーフェースの情報の交換・入手・伝達は、無味乾燥なITに比べ優るとも劣りません。

 企業は自らの経営事情を総合的に判断し、必要とするサービスを見極めたうえで、適切な銀行取引を選択しなくてはならないのです。

(6)利便性を考慮する
 IT時代とはいっても、現実の銀行取引では、立地条件が大きなウェートを占めています。

 銀行選別に当たっては、他の要因も考慮に入れたうえで、できるだけ近隣に銀行を選択すべきです。遠方の都市銀行を選択するか、近隣の信用金庫との取引を選択するか、近隣の信用金庫との取引を選択するかは、銀行との取引を推進していくうえで、単なる規模以上に重要な問題です。

(7)銀行の店舗政策を考慮する
 銀行の店舗政策は、店舗の統廃合、機械化店舗化、エリア制の導入など大きく変化しています。銀行の支店が統合され取引支店が閉鎖されれば、企業の死活問題にもなりかねません。せっかく銀行取引を見直しても、この視点が抜けていれば何にもならないのです。

 幸いこの時期、銀行の店舗政策は大体決定しているか、少なくとも計画は決定済みのはずです。手間暇を惜しまず情報入手に努め、適切な銀行取引を選択しなくてはなりません。

4.銀行の今後の方針を見定める

(1)都市銀行は顧客選別化へ
‡@ 顧客選別の強化
 都市銀行は大企業・優良中小企業・個人富裕層をメインターゲットとし、他の顧客層については切り捨てもやむなしという基本姿勢を明確にしています。

 「中小企業重視」はマスコミ向けリップサービスと見たほうが間違いはありません。銀行の要求を満たせない中小企業取引はお荷物であり、巧妙に取引縮小を図ろうとしているのが現実です。

‡A 選別融資
 顧客選別は当然、選別融資の強化を伴います。問題債権となりやすい一般中小企業との取引は慎重にならざるを得ないのです。

‡B 取引条件の選別化
 取引内容の良好な顧客に対しては貸出金利、預金金利、振込手数料の優遇措置や専任担当者による情報サービスを行う反面、取引内容の劣る顧客には口座管理手数料を徴収するなど、銀行の顧客対応姿勢が変わってきました。

 一定水準以下の顧客と判断されれば、差別的な条件を要求されます。

(2)地銀・第二地銀は地域密着型へ
 地銀・第二地銀は、地域金融機関のボス的存在であり、地域金融機関に特化する限り、その経営地盤は強固なものがあります。

‡@ 地域金融機関への回帰
 地銀・第二地銀は、地場優良中小企業取引を堅持しつつ、大手金融機関から締め出され行き場を失った中小企業取引を吸収することで経営維持を図ろうとしています。

‡A 従来の取引手法を堅持
 資金力不足やIT投資の効果が期待できないこともあり、新種の業務への対応は様子見の段階です。都市銀行が出来ないきめ細かいサービスの提供で、営業地盤の強化を図るほうが得策と判断しているようです。

‡B 信金・信組の地盤への進出
 地銀・第二地銀は、大手金融機関に比べ、店舗数・人員数も少なく、経営の維持拡大を図るには地域という限られたパイをより多く切り取るしか道はないのです。

(3)信金・信組はきめ細かい顧客対応へ
‡@ 地域密着型金融機関に特化
 最近の信金・信組の合併・再編は、経営の透明性のつながり、中小企業にとって頼りになる金融機関として生まれ変わりつつあります。

‡A 緩やかな顧客選別
 どのような企業に対しても門前払い的な対応をすることなく、極力、顧客の要望を充足することで経営維持を図ろうとしています。

‡B 取引条件は劣る
 集金業務などの渉外業務はコスト面で非効率であり、貸出金利などの取引条件は劣ります。

 銀行選別の判断基準は、企業ニーズによりますが、地域密着型金融機関志向は益々強まると思われます。

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