ゼイタックス

第6回 米国における税務行政 その1(税務調査について)

はじめに
 税務行政に関する著書は多くはありません。最近、租税手続法としてこの分野を解明しようとする研究が生じています。元来、税務行政は主として行政法の一分野として認識され、かつ、行政強制として研究されてきた経緯があります。しかし、権力行政として存在した税務行政も、先般成立した行政改革法(1999年7月8日成立)により、任務行政に変更する必要があります。

 折しも、米国においては、納税者のための税務行政を目指して、アメリカ内国歳入庁(Internal Revenue Service of USA、以下「IRS」といいます。)の再改革が行われました。すなわち「IRS再編成改革法(IRS Restructuring and Reform Act of 1998 USA)(以下単に「再編成法」といいます。)」の成立(1999年7月)です。

 したがって、この再編成法を基礎として、我が国における税務行政のあり方、特に納税者と最も接触の多い税務調査及び租税徴収を中心として検討します。

?J アメリカにおける税務調査
 アメリカは、世界の中で最も申告納税制度の発展した国だといわれています。

 そうして納税者が行った申告の内容が、法律に適合しているかどうかを確認するために税務調査(Audit)が行われます。その税務調査の具体的な内容は、質問検査権の行使として表わされます。

1 アメリカにおける質問検査権の行使
 IRSによる質問検査権の行使は、段階的に次の3つに分かれて行使されます。

(1)純粋な任意調査〔内国歳入法典 Internal Revenue Code(以下、IRCといいます。)7602(a)(1)〕
 この純粋な任意調査(以下「任意調査」といいます。)については、日本のような税務調査を忌避した場合に処罰されるというような間接強制はありません。したがって、任意調査に応ずるか否かは、納税者の任意となっています。また、税務調査事前通知書(Contact-letter)の送付は、慣習法として確立しています。

 そこで、任意調査は、次の順序及び方法により実施されます。

  ‡@ 不適格控除項目点検

  ‡A 照会調査

  ‡B 呼び出し面談調査

  ‡C 臨場調査

 多くの場合、これらの調査により税務調査は終了することになっています。

(2)行政召喚状(summons)による調査〔IRC7602(a)(2)〕
 行政召喚による調査は、納税者が任意調査に応じないとき又は税法違反の疑いがあるときに実施されます。しかし、この召喚状も行政上の措置ですから、この召喚状による調査に応じない場合には、裁判所に命令を請求して強制調査に移行するとの予告の性格を有してはいますが、召喚状自体が強制調査を行える権限を有しているわけではありません。

(3)裁判所の命令による強制調査〔IRC7604〕
 召喚状による調査に応じない場合には、裁判所の命令による強制調査に移行することになります。

 こうした、アメリカの税務調査は、一見納税者の権利保護に配意しているように見受けられます。しかし、この質問検査権の方法が次回から述べる納税者の権利侵害につながり、再編成法の端緒になったということができます。

インデックスへ戻る