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連載7 III 資金繰りに困らない強い財務体質づくり(1)

1 先行資金繰り表の作成と活用法

(1)目的とメリット
 「わが社は代金回収の予定がたてにくい。代金回収が確実なら、先行資金繰り表も作りやすいのだが」という声をよく聞きます。しかし、売上高や売上入金が確実に予測できれば、先行資金繰り表作成の必要性はそれほどありません。また、資金繰りがラクであれば、苦しい場合に比べてその必要性は減少します。

 売上入金が確実に予測できないからこそ、そして資金繰りが苦しいからこそ、事前に対応する必要があるのです。そのために、先行資金繰り表を作成するわけです。

 作成方法は、実績資料を基礎にして予測資料を収集し、一定の手順で作成していきます。その要点は、実績資料と予測資料をいかに綿密に収集するかです。

 先行資金繰り表で資金の収支管理がキッチリできれば、わが社の管理水準が高いことを示すわけですから、借入金を申し込む際にこれを用意すれば、銀行の信用度や理解度が格段にちがってきます。同時に、会社の経営体質が結果管理から先行管理へと変化し、成り行き・ドタバタ経営から先が見える余裕のある経営ができるようになります

(2)先行資金繰り表のフォーム
 資金繰り表は一定期間の現預金収入と現預金支出を対応させて、現預金の残高表を示す計算表です。現預金には現金・当座預金・普通預金などで、拘束的な定期預金は含みません。

 資金繰り表は実績か予測かによって、実績資金繰り表と先行資金繰り表に分かれます。また、売掛金や買掛金の決済、給料や諸経費の支払いが月ごとに行われているために、月次資金繰り表が基本になります。

 資金繰り表の構成は、‡@前月繰越、‡A収入、‡B支出、‡C財務収支、‡D次月繰越、の5区分に分かれます(表1参照)。

(3)作成上のポイント

‡@ 売上入金の予測
 現金入金の主なものはア現金売上の入金、2A7B売掛金の現金回収による入金、ウ受取手形の期日入金、エ手形割引による入金、です。

ア 現金売上の入金
 業種・業態によってちがいますが、過去の実績と予算期間の予測によって、その金額を計上します。

イ 売掛金の入金
 売掛金回収の予測として、次の3つの方法があります。

A 売掛金回転率・回収期間による方法
 年間売上高1、200万円(月平均100万円)、平均売掛金150万円とすれば、売掛金回転率は8回、回転期間は1.5ヵ月となります。

売掛金回転率=1200/150=8回
売掛金回収期間=150/100=1・5ヵ月

 回転期間が1.5ヵ月ということは、平均1・5ヵ月の売上高が未回収になっているという意味です。この方法は計算が簡単で利用しやすい一方、月々の売上が大きく変動するときは、ズレが生じます。

B 月ごとの回収率による方法
 売上高や回収率がかなり変動するときは、過去の回収率を求めて、回収額を予測します。回収率というのは、月初売掛金・当月売上高の合計と、当月回収額の割合です。

(例)売掛金回収実績表

回収率=C/(A+B)=41%

C 現金・手形の回収率による方法
 これまでの回収実績から、次のような回収額を予測します。

(例)売掛金回収実績表

 これをベースに、次のように4月売上100万円の回収額を予測します。


‡A 仕入代金の予測
 商品や材料・外注品の仕入高は、月別の売上高に対して消費高を予測し、月末在庫品を設定すれば次のようにして求めることができます。

仕入高=(消費高+月末在庫品)-月初在庫品

 月末在庫品の予測は、過去の実績が手掛かりになります。販売や生産活動に支障をきたさない範囲で、できるだけ圧縮することが、資金繰りをラクにするための要点です。仕入代金の支払いには、2A7B現金仕入の支払い、2A7C買掛金の現金支払い、2A7D支払手形の決済という形をとります。これらの見積予測については、過去の実績をもとに、売上高と関連づけて予測します。

‡B 諸経費の支払予測
 現金支払いが伴わない減価償却費などの費用は対象外となります。また、賞与は支払月にだけ記入することになります。項目は人件費、経費、支払利息・割引料の3つに分けます。

‡C 資金収支の調整
 最後に、返済期限のくる借入金を財務収支蘭に計上し、最終の現金残高を予測します。現金の過不足が生じますが、不足する場合は、手形割引や新たな借入金による資金調達が必要です。現金が余剰の場合はその活用方法を検討します。

(4)先行資金繰り表の活用法
 資金繰り表をわが社の資金管理の改善に活かすためには、少なくとも3ヵ月先行の予測と実績を毎月作成し更新することです。これを継続することによって、予測の精度が高くなり、先の見える経営が可能になります。

 わが社が健全な財務体質かどうかの目安として、次の2点を毎月チェックして下さい。

‡@ 翌月への繰越残高が総収入の20%以上あるか
‡A 支払手形の決済高が売上高の40%以下であるか

 資金繰り表をわが社の資金管理の改善に活かすためには、少なくとも3ヵ月先行の予測と実績を毎月作成し更新することです。これを継続することによって、予測の精度が高くなり、先の見える経営が可能になります。

 わが社が健全な財務体質かどうかの目安として、次の2点を毎月チェックして下さい

‡@ 翌月への繰越残高が総収入の20%以上あるか
‡A 支払手形の決済高が売上高の40%以下であるか

(表1)先行資金繰り表 >> こちら

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