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連載18 IV 銀行との上手な付き合い方(6)

6 取引銀行破綻に対する自衛策

(1)3つの対応策
 潰れるはずのない銀行の相次ぐ破綻で、いつ取引銀行が消滅するかもしれず、万一、合併などで生き残ったとしても、相手銀行との力関係によっては融資打ち切りなどの不利益を被る可能性も否定できません。対応を誤れば、企業の存続にとって死活問題となります。

 問題は、こうした取引先銀行の破綻が突然表面化する可能性があるため、企業側が事前に十分な対応策をとる時間的な余裕がないことです。

 そこで、企業経営の保全を図るためには、次の3つの対策が重要となります。

 ‡@ 複数の融資銀行をつくっておく
 ‡A 融資取引銀行と預金取引銀行を使い分ける
 ‡B 信用保証協会とのパイプを強化する

(2)融資と預金取引の銀行を使い分ける
 銀行との取引で企業側が見落としやすい点として、銀行は取引起業の預金・貸出金を一元管理していることがあげられます。通常、銀行は定期預金はともかく、当座預金や普通預金などの流動性預金を拘束することはないと考えがちですが、拘束は企業名義の預金だけでなく、経営者や家族名義の預金にまで及びます。

 銀行が回収方針を決めると、銀行取引約定書を根拠に、預金担保を設定していない定期預金や流動性預金についても、一方的に相殺が行われることがあります。

 逆に、取引銀行が破綻した場合には政府の指導で、受け皿銀行の斡旋や緊急特別融資などの対策がとられるにしても、流動性預金はともかく、定期性預金が払い出されることはまずありません。

 取引銀行の要求に応じて、預金をすべて集中したにもかかわらず、必要な銀行の支援が得られない企業が多いのも事実です。企業側がこうした事態にどのように対応するかを考え、万一の際の打つべき手段を検討することは、必要かつ当然のことといってもよいでしょう。

‡@ 使い分けの目的
融資取引銀行と預金取引銀行を使い分ける意味は、「企業存続への保険」にあります。

 銀行はもともと、自分の目の届かないところでの資金移動を嫌います。取引企業の資金決済業務をトレースできる預金を、なるべく支店に集中させるように要求するのは、取引内容をより正確に把握することにあります。

 取引企業の受取手形を代金取引手形としてあらかじめ預けることによって、回収先・回収金額・回収条件を把握し、そして回ってきた手形・小切手をチェックすれば支払い先・支払金額・支払条件がわかります。回収・支払いの両方がわかれば、取引先企業の経営状態や資金繰りは簡単につかめます。具体的には、当座預金の出入金明細のチェックです。

 企業側から見ると、一行にすべてを集中すると、経営実態が丸裸になり、まさに生殺与奪の権利を奪われることになるわけです。

‡A 具体的な方法

イ 預金取引銀行をつくる
 メインの取引銀行に加えて、預金取引専用の銀行を作ります。預金開設にあたっては、普通預金など流動性が確保できる口座に限定すべきです。要望されても定期預金は避けるべきです。

 新しく開設した普通預金の利用方法は、新規取引企業からの売上代金の振込みから始めます。

ロ 次に、滞留した資金は小口現金決済に利用するなど使用方法を工夫し、活用します。目標としては、月商の1ヵ月分程度の残高水準をキープするようにします。

‡B 使い分けのメリット

  銀行の使い分けを実施しても、「面倒な割には効果が少ない」、「融資銀行に知れたときのリスクが心配だ」といって躊躇されるかもしれませんが、使い分けのメリットを検討してみます。

イ 預金拘束を免れ資金繰りの自由度が増す
 前述のように、企業は、融資銀行への預金は担保提供の有無や定期性・流動性の区別なく、基本的には、すべての預金は拘束預金であることを認識しなくてはなりません。

 企業経営には、不測の事態の発生はつきものです。いつ、いかなるかたちで発生するか誰にも予測がつきません。その際、臨機応変に対応するには、なんといっても自由に使える資金が不可欠となります。

 資金のすべてが融資銀行に集中していれば、こうした自由な対応が不可能となるわけで、預金の分散は、こうした場合に企業経営の自由度を確保し、資金繰りに柔軟性を与えてくれます。

ロ 取引銀行変更へのステップとなる
 銀行も企業も、従来のように過去の取引実績の歴史でもって、将来の取引維持を期待できる環境ではなくなりました。むしろ、取引銀行の変更が避けられない事態を想定して、早めの対策を考えておくことに越したことはありません。

  その意味で、預金専門銀行を早めに選択し、取引実績を積み上げておくことは、リスク分散と企業存続の余地を広げるメリットがあるわけです。

‡C 使い分けの際のポイント
 使い分けの目的が「企業経営の自由度の確保」、「銀行の顧客選別の対応」であることを念頭に、自社に合った銀行の選択と取引内容を検討してみます。

イ 預金取引銀行の選択
 基本的には、現在の融資取引銀行より下位ランクの銀行のなかから選択します。自社の身の丈にあった、状況によっては新規の融資銀行候補といった視点で検討します。

ロ 取引内容を秘密にする
 融資取引銀行に預金取引銀行の存在がわかれば、当然のことながら好感はもたれません。まして、ある程度の取引規模になっていれば、そのことを理由に取引縮小を申し出てくる可能性があります。

 そうしたリスクを極力避けるために、融資取引銀行には預金取引銀行との取引内容は内密にしておくように心掛ける必要があります。

ハ 決算時の処理に注意する
 決算処理には工夫が必要です。銀行は最近、決算時や審査の際に、取引先企業から貸借対照表、損益計算書だけでなく、「付表」の提出を求めるようになっています。

 銀行は、これらの資料を万遍なくチェックしますが、そのなかで「金融機関取引の状況」については特に注意を払っています。なかでも、他行における預金残高の推移には敏感です。

 企業としては、銀行のこうした姿勢を考慮して、決算時点における預金取引銀行の預金残高を調整する必要があります。

ニ 普通預金に限定する
 預金取引銀行に開設する預金の種類は、原則として流動性の高い普通預金に限定し、定期預金はたとえ積立預金であっても避けるべきです。

 今後の取引展開を考え、定期預金取引が必要と判断した場合は、経営者の個人預金取引とし、その内容は、融資取引銀行には内密にするように努めます。

ホ 取引の進め方
 最初は現金取引回収口座、あるいは融資取引銀行が知らない新規取引先の資金管理口座として利用し、さらに可能な範囲で融資取引銀行から徐々に一部取引先への移替えを行っていきます。

  対象先としては、小口取引先を中心とし、中堅取引先については避けるようにします。あえて実施する場合は、現在付き合っている銀行から取引縮小や取引条件の変更などを求められたことを理由に、慎重に実行するようにします。

ヘ 融資取引銀行と取引内容の改善
 せっかくの預金取引銀行です。場合によっては、これを利用して融資取引銀行との取引内容の改善に努めます。

  融資取引銀行に対する自社の実質金利をを計算し、適正な水準への取引内容の修正・改善を実施することです。この場合、融資取引銀行に預けている定期預金は調整できませんので、当座預金や普通預金の流動性預金の残高調整によって、適正な実質金利になるようにします。

ト 融資取引銀行への言い訳を考えておく
 企業が独自の判断で預金取引銀行をつくることには本来、釈明など不要です。しかし、この時期、融資取引銀行を刺激することは得策ではありません。

「小口の顧客からの要望」など、刺激しない理由はいくらでもありますので、事前に用意しておくといいでしょう。

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