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第9回 米国における税務行政 その4(税務調査について)

III 米国の税務調査についての公聴会(2)

4 公聴会におけるIRS長官代行の証言
 IRS長官代行のマイケル・ドーランは、この公聴会の3年前にも、議会の会計検査院(GAO)から、職員に徴税ノルマを課し、その成績により勤務評定が行われ、それらの影響により税務調査に係る職権乱用が生じているのではないかという指摘を受けた当事者でした。そのとき、ドーランは知らぬ存ぜぬということで押し通したものでした。

 しかし、公聴会における被害者の数々の証言には、ドーランも返す言葉がありませんでした。そこで彼は、公聴会で「証言された事例について、われわれの対応は、きわめて不適切だった、まことに申し訳ない」と陳謝し改革を約束しました。

5 ドーランの改革
 ドーランは、直ちに全米の地区責任者(日本の各国税局長に相当します。)に職権乱用の取り締まり強化を指示しました。それと共に公聴会の最終日の9月25日に、数人の地区責任者を停職処分にしました。

 ニューズ・ウィーク誌のスクープによれば、停職処分を受けた一人であるロナルド・ジェームス(アーカンソー州・オクラホマ州担当の地区責任者)の8月4日付の署名入りのメモには、IRSの内部では、押収、差し押さえ、課徴金取り立ての実績を基準に職員の勤務評定が行われていた実態が克明に記載されていました。

 これは、明らかに納税者の権利擁護義務に対する違反であるということができます。そうして、職権乱用の原因は、地区責任者自体の格付けにあったことが明らかになりました。

 公聴会を受けてドーランが、最初に行った改革は、徴税額を基準に全国33の地区責任者を格付けする慣行の廃止でした。格付けにより昇進が行われ、予算配分が行われるIRSの制度に対して、地区責任者の関心は高かったといえます。

 すなわち、公聴会の証言によれば、競争心に駆られた地区責任者の出す報奨金が、職員の職権乱用の主な原因になっていたということができます。

6 米国議会における改革の方向
 公聴会におけるもう一つの被害者の証言の一致は「IRSへの苦情があっても、それを受けつけてくれる窓口がない」というものでした。どこにIRSへの苦情があるかといえば、報奨金に目がくらんだ職員はその手段として、行政召喚状(サモンズ)の発行を道具にして低所得者に徴税の標的を絞っていたという証言もありました。行政召喚状は、納税者が任意調査に応じないとき又は税法違反の疑いがあるときに発行され、この召喚状による調査に応じない場合には、裁判所に命令を請求して強制捜査に移行する予告の手続きを有するものです。そうして、行政召喚状発行対象者には、善良な納税が認められている納税者権利保護の規定、すなわち、前に説明しました「包括的納税者権利保障法」に定められた納税者への権利の告知等を記載したIRSの宣言書を、調査及び各種の課税処分を行うに当たり納税者に配布して、納税者の権利を保障する規定は、適用する必要はないこととされています。

 そこで、IRSの職員は、経済的な理由で法的な抵抗手段を取りにくい低所得に、行政召喚状の発行をにおわせながら徴税の効率化としての職権乱用を行っていたということができます。

 そこで、米国議会は、公聴会の証言を踏まえ、すべての国民の生活に影響を与える広範かつ強大な裁量権を与えられているIRSに、常設の監視機関が存在しなかった事が、これらの腐敗の温床になったとして、IRS再改革に乗り出したということができます。

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