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第2回「各事業年度の所得金額の計算~益金・損金~」税理士 鹿志村 裕

 今回のテーマは、「各事業年度の所得金額計算」です。

 毎期決算を組んで法人税の申告・納税を進めていると思いますが、毎期申告する法人税は何に対して課税されるのか、その金額はどのようにして計算されるのかの解説を行います。

税金の計算には、よく「課税標準」という言葉が出てきますが、課税標準とは何ですか。 また、法人税の課税標準はどのような金額を言うのですか。

課税標準とは、税額を算定するための基となるもので、この課税標準に税率を乗じて(適用して)税額を算定することになります。

 課税標準は、計算する税金の性質によって、所得であったり価額(評価額)であったり、また、金額で表されたり数量で表されたりします。

 課税標準は、税金を計算する上での一要素ではありますが、その税金の目的を考慮して、税金を負担し得る力(担税力)を測定し課税する上で、非常に重要な要素となっています。

 そのため、課税する税金の性格によって、それぞれ違う課税標準を定め、課税を行っているのです。

 さらに法人税について説明すると、国内に本店のある法人に対して課される法人税には、次の3つがあります。

 ‡@ 各事業年度の所得に対する法人税

 ‡A 退職年金等積立金に対する法人税

 ‡B 清算所得に対する法人税

   このうち、毎期決算を組んで税金申告しているのが、‡@の「各事業年度の所得に対する法人税」で、この法人税の課税標準は、法人税法21条で次のように定めています。

 「……各事業年度の所得に対する法人税の課税標準は、各事業年度の所得の金額とする」

  このように、毎期申告・納税をしている「各事業年度の所得に対する法人税」は、毎期の所得額を課税標準として、その所得額に税率を乗じて算出する仕組みになっています。

法人税の課税標準である各事業年度の所得とは、どのように計算するのですか。

法人税法の中では、「所得とは何か」について定義している規定はありません。

 しかし、その算定方法について次のように規定しています。

「……各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする」

 これは第1回の解説の中でも出てきたとおり、算式にすると次のようになります。

 各事業年度の所得 = 益金 - 損金

 益金や損金が、企業で計算する収益、費用と同額でないことは、前回の解説の中で説明したとおりです。

 そこで疑問を持たれるのは、「企業で計算した利益は、法人税の所得計算上どのように関係するか」だと思います。

 もう少し具体的に考えると、企業会計の収益、費用が、法人税の益金、損金と違うなら、「法人税の所得計算は会計は別に再度計算しなおさなければならないのか」という疑問だと思われます。

 しかし、法人税法でも益金、損金の金額を「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるもの」と前提を置いた上で、税法の目的にしたがった「別段の定め」を規定し、企業会計上の収益、費用を個別的に調整して、法人税法の所得金額を計算しているのです。

 個別的に調整する内容は、大きく分けて次の4項目となります。

 ‡@  益金不算入項目(会計上収益でも法人税法上益金にならない項目)

 ‡A  益金算入項目(会計上収益でなくても法人税法上益金になる項目)

 ‡B  損金不算入項目(会計上費用でも法人税法上損金にならない項目)

 ‡C  損金算入項目(会計上費用でなくても法人税法上損金となる項目)

  これを図にすると次のとおりです。


 この図のように、企業会計で計算した利益を基に、個別的に益金、損金を確認してその調整を行い、最終的に法人税法上の所得金額を算定していきます。

 この所得金額の計算を「法人税申告書別表4」で行うことになりますが、「別表4」の計算の仕組みは下記のとおりです。


法人税法で益金、損金とはどのようなものを言うのですか。

法人税法上益金、損金は第22条2項及び3項で次のように規定しています。

【2項(益金)要約】

 当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次のような取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。

‡@  資産の販売

‡A  有償または無償による資産の譲渡又は役務の提供

‡B  無償による資産の譲り受け

【3項(損金)要約】

 当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。‡@ 当該事業年度の収入に係る売上原価、完成工事原価、その他これらに準ずる原価の額‡A 当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く)の額‡B 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの

益金については、有償取引だけでなく、無償取引や低額で譲渡するような取引についても、その資産や役務提供の本来の価額(時価)による取引が行われたことを前提に収益の額を測定し、益金に算入する規定となっています。

 損金については、企業会計上の原価、費用又は損失に相当する金額を規定していますが、‡Aのところで規定しているとおり、「償却費以外の費用で事業年度終了の日(決算日)までに債務の確定していないものを除く」としています。

 これは、企業会計上保守主義の考え方から、将来予想される損失に備えるため、いろいろな引当金を設定したとしても、法人税法の別段の定めで認められている引当金以外であれば、損金算入することができない規定になっていることが代表的な例です。

 具体的に債務が確定していない金額を損金とすると、企業の恣意性が含まれる可能性があり、この恣意性を排除し課税の公平を維持するためこのような規定となっています。

確定申告書の提出後に売上の計上漏れが判明した場合や期末棚卸の金額が過大に計上されていた場合には、どのような手続きをとればよいでしょうか。

納税申告書を提出した法人は、その後、申告書に記載した法人税額が過少である場合や欠損金額が過大である場合には、税務署長の更正があるまでに、課税標準や税額等を修正するため修正申告書を提出することができます。したがって、売上の計上漏れの場合は、法人税額が過少又は欠損金額が過大になることから、更正があるまでに修正申告書を提出することができます。

 なお、期限内に適正に申告納付した法人とのバランスをとるため、修正申告書を提出した場合には、延滞税や加算税のペナルティーが課されることになります。

 ただし、調査等により更正されることを予知したものでない場合、つまり自主的に修正申告書を提出した場合には、延滞税のみで過少申告加算税は課されません。

 納税申告書を提出した法人は、その後、申告書に記載した法人税額が過大である場合や欠損金額が過少である場合、または還付金が過少である場合には、原則として、法定申告期限から1年以内に限り、税務署長に対し、その課税標準や税額等について減額のための更正の請求をすることができます。したがって、棚卸の過大計上の場合は、法人税額が過大又は欠損金額が過少若しくは還付金が過少になることから、法定申告期限から1年以内に限り更正の請求をすることができます。

 なお、修正申告に対する延滞税との権衡から、還付金には一種の利息に当たる還付加算金が加算されます。しかし、更正の請求を受けた税務署長は、その請求に係る内容を調査して、その調査に基づき減額更正するか、又は、更正すべき理由がないかを判断することから、あくまでも調査が前提であるということを承知しておく必要があります。


各事業年度の所得を考える上での留意点

 法人税法の課税標準である各事業年度の所得金額は、企業会計でいう利益金額と一致しない点もあります。

 しかし、基本的には「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」を前提に、税務上の調整をして所得金額を計算しますので、会計上と全く違うものではありません。

  そこで、調整の必要な部分を理解し、それ以外は会計と同じと考えて行けば、難しく考えることもないと思います。

3:申告納税の手続き~青色申告制度~