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第7回 「費用損失通則・・・売上原価・販管費」税理士 山本 晋也

 前回までの「収益の通則」を受けて、今回から2回にわたって「費用損失の通則」について解説します。そのなかでも今回は、売上原価・販管費の計上時期を中心に検討します。

法人税法上、損金の額の計上時期は企業会計のそれとは異なるのですか?

法人税法における損金の額の取扱いについては、別段の定めが存在しない限り、第22条第3項が基本規定となります。すなわち、

‡@ その事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額(以下では売上原価等といいます。)

‡A ‡@に掲げるもののほか、その事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用でその事業年度終了の日までに債務の確定していないものを除く)の額(以下では販売費等といいます。)

‡B その事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの

というように、3つに区分して損金の額に算入する金額を定めています。

 ただ、このように3つに区分するとはいえ、法人税法が売上原価や完成工事原価、販売費、一般管理費等に対して企業会計とは別に独自の定義を付しているわけではありません。また、これらを具体的にどの事業年度に計上すべきか等の基準を明示しているわけでもありません。したがって、‡@~‡Bの損金計上基準としては、別段の定めがあるものを除いて、法人税法第22条第4項でいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に依拠することになるわけです。

 以下でもう少し詳しく検討しましょう。

 

‡@にいう「その他これらに準ずる原価」とは具体的にはどういうものをさすのですか?

法人税法上の「原価」の概念のなかには、企業会計上の売上原価や建設業での完成工事原価だけでなく、譲渡収益に対する「譲渡原価」も含まれています。ただし譲渡原価は、企業会計上は譲渡損益(たとえば固定資産売却損益)として純額表示されるので、決算書上で総額として表示されることはありません。

 この点法人税法は、売上高も完成工事高も譲渡による収益も益金としては同一なものとして考えていることから、これに対する原価、すなわち売上原価、完成工事原価、譲渡原価も‡@の枠のなかで損金として同一に取り扱うことにしているわけです。また、この法人税法上の原価のなかには、役務の提供に係る収益に対応する役務原価等も含まれます。

 

売上原価等の具体的な計上時期については、どのように考えたらよいのですか?

3つの区分のうち、‡@にあたる売上原価は、収益との対応形態でいえば、売上高に対し商品や製品等を媒介として個別に直接的な対応関係をもっています。企業会計でいう「費用収益対応の原則」によれば、期間損益の正しい把握のためには売上原価はその収益が計上された事業年度に計上されるべきであり、法人税法もこれにしたがっています。これは完成工事高に対する完成品工事原価、譲渡収入に対する譲渡原価についても同様です。

 具体的には、前回までに解説済みの収益の計上基準に基づいて収益計上された売上高等がある限りは、それに個別的に対応する売上原価等は同一事業年度に損金の額に算入されることになります。仮に、事業年度末で売上原価等が未確定な場合でも、適正な金額を見積計上することになります(法基通2―2―1前段)。

 なお、この売上原価等の見積りに関しては、合理的かつ適正な算定根拠資料を用意したいところですが、その後売上原価等が確定したときに、見積額と確定額に差額が生じた場合には、その差額は売上原価等が確定した日の属する事業年度の益金の額または損金の額として処理します。

第2回の解説で、償却費以外の販売費等の計上基準は債務確定基準であるとのことでしたが、「債務が確定する」とは、具体的にはどういう状況のことをいうのですか?

3つの区分のうち、‡Aに該当する販売費等は、収益との対応形態でいえば、期間的間接的対応関係であり、企業会計上はその発生した事業年度に費用として計上されるべきものです。

 ところが、第2回で解説したとおり、企業会計上の販売費等であっても引当金等は、特に認める場合を除き、損金として計上することを法人税法は認めていません。すなわち、償却費以外の費用については、いわゆる期末までに債務の確定しないものは、損金の額に算入させない(債務確定基準)ことを明らかにしています。

 問題は債務確定の具体的な判定ですが、別に定めるものを除いて、以下の3つの要件すべてが求められます(法基通2―2―12)。

‡@ その事業年度終了の日までにその費用に係る債務が成立していること。

‡A その事業年度終了の日までにその債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。

‡B その事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定することができるものであること。

 ただ、この債務確定基準は損金算入の条件ではありますが、たとえば、仮に債務が確定しているものであっても、その費用が本来その法人ではなく、役員等の個人が負担すべきものである場合は、当然損金の額に算入することはできません。

 また、債務が確定しているものであっても別段の定め、たとえば高額役員報酬等の損金不算入や寄付金の損金不算入等がある場合には、それらが優先されることになります。

 

債務確定基準と売上原価の見積計上についてその関連性は実務上どう考えたらいいのですか?

これまでみてきたとおり、売上原価等が確定していない場合の売上原価等の見積計上処理からみて、売上原価等には販売費等で求められる債務確定基準の適用がないと考えることができます。

 確かに、売上原価等にも債務確定基準を一律に適用させるべきであるとする考え方もありますが、仮にそうした場合、売上原価がゼロの売上高が計上されるなどの問題が生じる可能性すらあります。

 すなわち、売上原価等に関しては、法人税法は債務確定基準をこえて費用収益対応の観点を重視します。

 一方、実務的には、原価の見積計上をするにあたって、その未確定の費用が売上原価等に該当するのか、それとも債務確定基準が求められる販売費等に該当するのかの問題が生じます。この場合は、その費用に対応するとされる売上に係る契約の内容やその費用そのものの性質等を勘案して合理的に判断しなければなりません(法基通2―2―1後段)。

 今回は、売上原価等及び販売費等の計上時期について包括的に解説してきました。もちろん実務上は、たとえば売上高等に売上原価等を個別的に対応させることが困難な業種など、昨今の複雑化した各種業態に一律にこの包括的な取扱を適用することはできません。あるいは、原価であるか期間費用としての販売費等であるかの峻別も実務では極めてデリケートな問題です。そこで、個別の取扱通達等を参考に、その処理については十分検討する必要があります。

8:費用損失通告……販管費・損失