ゼイタックス

連載4 II 資金繰りの実態を点検しよう(2)

3 わが社の「経営健康度」チェック

(1)マネジメントと社内ルールづくり
 マネジメントがおろそかになると、企業の業績は上がらないように出来ています。何故なら、「なるべく楽をして、給料は多くもらいたい」、「業績不振を他人のせいにしたい」あるいは、「易きに流れやすい」のが人間の本性であり、企業はそうした人間の集団で運営されているからです。

 学生は試験があるから勉強し、就職活動に不可欠だからインターネットを使いこなすように、意識すると人間は行動が活発になります。目的がはっきりせず意識しないと、行動が鈍くなります。

 また、自動車と電車による事故の発生する割合を比較しますと、圧倒的に前者の方が多いことは明らかです。年間約9千人が自動車事故で亡くなっていますが、電車事故による死亡者はせいぜい2ケタです。この違いは、レールが敷かれているかどうかにあります。

 企業経営においても、守るべきルール、達成すべき目標が明確になっている会社ほど、業績が良いといえます。

(2)自社の業績を蝕む「シロアリ」を探そう
 そこで、自社の業績が低迷している原因を探し出し、改善のための目標と達成のためのルールを定めることが必要となります。マネジメント不足のために、いつの間にか増加して会社の土台を蝕んでいるものと、逆に減少して業績の足を引っ張っているものをピックアップしますと、大体表1のように要約されます。

 項目別にチェックして増加するものを減少させ、減少しているものを増加させるようにすれば、必ず業績は向上します。

(表1)業績が上がらない理由

増加するもの 減少するもの
1.経費 5.返品・値引 1.業務効率 5.受注・売上
2.人件費 6.クレーム 2.スピード 6.粗利益
3.売掛金 7.借入金 3.営業行動 7.得意先
4.在庫 8.その他 4.情報 8.その他

(3)判断材料となる「モノサシ」を持とう
 増加するものに歯止めをかけ、出来れば減らしたいと思っても、どの程度が適正な水準なのか解らないと困ってしまいます。そこで目安となる指標が必要となります。羅針盤となるモノサシがあれば、達成すべき目標が明確になり、効率的なマネジメントが可能になるわけです。

‡@ 経 費
 経費のなかで増加しやすいものには3Kと仮払金があります。3Kとは、交際費・交通費・広告宣伝費を指します。交際費の上限は売上高の1%が目安となります。出張旅費の精算は1週間以内と期限を決めて、1日でもオーバーすれば精算しないといった社内ルールを設定すると良いでしょう。仮払金についても期限を設けると効果があがります。

‡A 人件費
 経費のなかで50%以上を占めるのが人件費です。

 人件費の適正な水準を測る指標として、企業が生み出した付加価値のうち、どれだけ従業員に回すかを示す「労働分配率」があります。労働分配率は次の公式で求めます。

労働分配率=付加価値高(粗利高)÷総人件費

 分子の総人件費には給料・役員報酬・ボーナス以外に健康保険や雇用保険などの法定福利費、さらに福利厚生費も含めます。

 経済企画庁の資料では、平成12年6月時点での労働分配率は全産業平均で66%です。しかし、継続的に黒字を確保するためには50%以下を目標とすべきです。そのためには、人件費の変動費化などの具体的な対策が必要となります。

‡B 売掛金
 売掛金の早期回収は、資金繰り改善には絶対欠かせない重要なポイントです。売掛金は自社からみれば金利タダの貸付金、相手にとっては金利ゼロの借金です。回収管理のワキが甘くなると焦げつきにつながり、連鎖倒産に発展しかねません。回収状況が悪いパターンとして、先方の回収日に取り立てに行かないとか、請求書を相手の締日に合わせて発送していないケースがあります。一番多いのは、営業員が、経理に回収業務を押しつけるケースです。

 「営業は回収してナンボ」という意識をしっかり植えつけるために、売掛金回収率を業績評価の対象とすることです。また、表2のような一覧表を作成し、営業ミーティングの都度、未回収状況を確認すると効果が上がります。3ヵ月以上の回収遅延先については、焦げつく恐れが高い先として個別の対策を立てることが重要となります。

(表2)回収遅延一覧表(  年  月  日 現在)

No.

得意先名

金額

本来の入金日

回収予定日とその方法

担当者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

‡C 在 庫
 在庫を見たら「わが社の大切なお金が眠っていると思え」といいます。とにかく減らすこと、不良在庫を早く換金処分することが大切です。自社の適正在庫量を検討し、月商の0.5ヵ月分、1ヵ月分、1.5ヵ月分というように在庫基準を設定します。同時に、実地棚卸の回数を増やし、営業員にも棚卸に参加させて在庫の山を意識させることがポイントとなります。仕入月が一目でわかるように、カラーテープを添付するなど、「目で見る管理」を進めると効果があります。

‡D 返品・値引き
 営業が弱いと、いつの間にか増えるのが返品・値引きです。売上高の5%以下に押さえこむことが目安になります。返品・値引きの条件を明確にし、曖昧さを排除することが先決です。

‡E クレーム
 「クレームは天の声」といわれます。その意味するところは、顧客が自社の欠点・弱点をズバリ指摘してくれるからです。もう1つは、経営者の代わりに顧客が従業員を叱ってくれるからです。こんな有り難い顧客はありません。だから、クレーム客は大切にしなければならないのです。怖いのは、モノ言わぬ不満客です。蔭でわが社の悪口を言い触らしている可能性が高い、と認識する必要があります。マイナスの口コミは通常の6倍のスピードで広がるといわれます。あそこの対応は冷たい、誠意が感じられない、不親切だ、などの不満は口コミを介してあっと言う間に伝わります。まるでテロリストを飼うようなものです。

 反対に、迅速で誠実なクレーム対応は、人件費ゼロのわが社の営業員を育てることにもなります。クレームをチャンスと捉え、これを機会にわが社のファンになってもらおうという意識で対応すれば、ライバルとの差別化も図れます。クレーム処理のルールづくりの見本を、以下に示しますのでご参照下さい。

1)謝る。言い訳をしない。途中で口をはさまない。
2)とにかくスピード対応。クレームの80%は早期処理で解決できます。
3)費用無視、原状回復最優先。目先の損より信用を失わないほうが大切。
4)アフターフォロー。電話・手紙・訪問などでアフターフォローを徹底する。
5)クレーム発生の責任よりも、クレーム不報告の責任を厳しく追及する。

 一般的に、技術に自信がある企業ほど、クレーム処理を軽視する傾向があります。1万点に1点の不良品でも、顧客とっては100%の不良品です。

‡F 借入金
 借入金の限度は年商の30%です。短期と長期の借入金の合計が30%を超えると、借金体質から抜け出せなくなります。オーバーしている企業は早急に返済スケジュールを作成し、計画的・段階的に借入金比率を引き下げていく必要があります。

5:イザという場合に役立つ無担保・無保証の制度融資の活用法1