会社の保養所と称して、役員が個人で使用する別荘やリゾートマンションを購入する例がある。法人の名義で取得はするが、その実体は役員個人の別荘で、社員は「保養所」の存在すら知らないということがある。 法人の資金を個人の別荘の取得に当てれば,その名義の如何を問わず、役員賞与とみなされる。法人資金が個人に流れたとの判断だ。
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リゾート施設の必要性
新橋機械はハワイにコンドミニアムを購入した。コンドミニアムは日本で言うところのマンション。海岸に近いのでリゾートマンションというのが日本人的感覚だ。 「ハワイにコンドミニアムを購入されていますが、購入の目的はなんですか」調査官は単刀直入の質問をした。 「機械の購入目的は聞かないのですか」遠慮のない調査官の質問に虫の居所を悪くした社長はこんな答えを返した。 「機械は会社が使うものですから分かります」 「コンドミニアムも同じです。会社が使うもので購入したのです」 「ハワイで機械加工をするのですか」イヤミな調査官だ。こんな質問をするから社長の返事が乱暴になるのだ。 「コンドミニアムに機械を入れる人がありますか。保養ですよ、保養」 「どなたの保養ですか」 「社員に決まっているでしょう」 「なぜ、ハワイなのですか」 「どこだっていいでしょう。税務署には関係ないことです」 「国内に保養施設をお持ちですか」 「国内にはない」 「初めての保養施設がハワイのコンドミニアムというのは不自然です」 「どこを買おうと勝手じゃないですか」 調査官の質問は乱暴で具体性に欠ける。なぜハワイのコンドミニアムを購入したのかを聴取したいのであれば、その点を素直に質問すべきである。 調査官の質問に気分を害した社長の返答は仕方のないものなのかもしれないが、このような問答を繰り返していたのでは気分を害するばかりである。それとも、調査されたくない何かがあるのだろうか。 「ハワイにした理由は何ですか」 「人材募集です」経理部長が答えた。 「募集のためにハワイなのですか」 「ウチのような三流企業で人材を集めるにはこれしかないのです。駅からは遠い、油で汚れる、給料は横並び、となれば就職の決め手は保養施設になるのです」 「国内でもいいではありませんか」 「今の若い人は海外旅行慣れしていて、国内では不人気なのです。しかも国内では冬用の施設と夏用の施設の両方が必要になりますが、ハワイでしたら一年中泳げますので、割安なのです」 「人材募集のためにハワイのコンドミニアムを購入した、ということが分かる書類を見せてください」 「書類がないと認めないということなのかね」社長が口を挟んだ。 「来年の卒業者のための会社案内を作りました。これに『ハワイにコンドミニアム所有』と載せてあります」経理部長が答える。 『書類を見せて欲しい』というのは調査官の常套句だ。書類がないと納得しないということもあるが、何もないと上司に報告ができないという事情もある。社長が言うように「書類がないと認めない(納得しない)」ような印象を与える要求の仕方には問題がある。書類の有無にかかわらず、事実は事実として存在するのだ。だが、事実が事実として存在すれば何らかの書類は残る。それが会社案内だ。 仮に、会社案内が作成される前に調査があったとすれば、面倒なことになっていただろう。人材募集のための購入といいながら会社案内にも乗っていないのであれば、社長や役員のプライベートな施設とみなす、そうでないなら証拠となるとなる書類を出して欲しい、ということになっていたに違いない。
リゾート施設利用の実態
「今日までに何人の方が利用されましたか」 「完成して3ヵ月です。ですから、社員の利用は1組4名だけです」 「社長は何回行かれましたか」 「私は3回。契約やら、現地での打ち合わせがありましたから」 「その他、役員の方は何回行かれましたか」 「専務が2回、経理部長が1回です」 「社員よりも役員の方が利用しているではありませんか。このコンドミニアムは役員用なのではありませんか。あるいは社長のプライベート用なのではありませんか」 「契約と打合わせのためだと言ったでしょう。完成した後も行きましたが、ベッドも食事も用意できていないので、コンドミニアムには宿泊していません」 「社長がコンドミニアムを利用しなかったことが分かる書類を見せてください。」 「そんな書類が有るわけないでしょう」 「パスポートを見ればハワイに行った日が分かります。ベッドなどを購入した日は領収書で分かります。其れで如何でしょうか」経理部長は触らぬ神にたたりなし、とばかりに答える。 調査官は役員専用、すなわち同族が利用するリゾート施設ではないかと疑っている。社員のためと称しながら、もっぱら社長やその同族関係者が利用する保養施設が購入されている事例が多数あるからだ。 「社員4名が利用したことの分かる書類を見せてください」 「社員にパスポートをを借りれば、ハワイに行ったことは分かりますですが、コンドミニアムを利用した事は分かりません」経済部長は先回りして答えた。
利用規定の有無
「コンドミニアムの利用規定はありますか」 「今のところ作っていません」 「社員のための施設でしたら利用規定があるはずです。社員には利用させないのですか」 「会社案内に載せたとおり、社員のための施設です」 「なぜ、利用規定がないのですか」 調査官の指摘は当を得ている。社員のための施設であれば、その利用規定があるはずで、社長が自分の別荘を社員に貸す感覚でいるから、利用規定が作られないのだ。利用規定がなければ会社の施設であるとの主張は弱くなる。 「何しろ初めての施設ですので規定の作成が後回しになっているのです。関係先などに聞いて、より良いものを作ろうと思っています」 「これからの利用予定を記録した書類を見せてください」 「特に作ってはいませんが」 「利勝者が集中してダブったらどうするのですか」 「ダブることはないと思うのですが」 「利用申込書はありますか」 「今のところ作っていません」 「コンドミニアムの利用管理はどなたがされているのですか」 「今のところ専務がしています」 「専務は社長の奥さんですね」 会社の施設を自分のものだと思い込んでいるとこんな状態になる。社員に利用させることを考えていないから利用規定や利用申込書がなく、現在利用予定の記録もないのだ。第一、利用管理を専務がしているのはおかしい。一般社員の仕事だ。会社の施設という感覚がない証拠だ。私物扱いが表われている。 新橋機械は、コンドミニアムが完成してから3ヵ月しか経っていないので利用規定などができていないというが、施設の購入を全社員に周知したのだろうか。周知したのであれば、利用方法、申込方法、申込みが集中した場合の抽選方法などの基本概要は主周知の時にできているはずである。 社内案内にはコンドミニアムを所有していることが書かれているが、はたしてこの会社案内は就職希望者に配られるのだろうか。そんな疑問まで生じてしまう。
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