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第13回 「繰延資産の償却」税理士 望月 光男

 法人が支出する費用で、その支出の効果が長時間に及ぶものは、一般的には固定資産や棚卸資産、前払費用等の資産に該当することになります。繰延資産はこれらの資産には該当しないもので、しかも支出があった事業年度の費用とすることも費用収益対応からみて合理的でないものをいいます。したがって、法人税法では、これらの費用をいったん繰延資産として資産に計上し、償却費としてその支出の効果の及ぶ期間に合理的に費用配分を行います。

繰延資産とはどのようなものですか?

減価償却資産は、その支出時において全額を一時に損金に算入することができず、その耐用年数により計算された償却費だけが毎期の損金に算入されます。これは、毎期の収益がその減価償却資産の使用により生み出されることから、その収益と費用を対応させ正しい期間損益を計算するためです。

 この収益との対応を考えてみると、法人が所有している資産でなくても、「法人が支出した費用で支出の効果が一年以上に及ぶもの」については、費用ではあるけれど一時の費用としないで将来の収益に対応させるべきだといえます。このような費用を繰延資産といい、いったん資産に計上し一定期間で償却します。

 繰延資産の償却については、減価償却と同様に決算において損金経理をしなければ損金の額に算入されませんし、申告書に明細書(別表16(5))の添付が必要です。また、償却限度額も定められています。

 なお、20万円未満の小額繰延資産については、例外として支出した事業年度で損金経理をすればその処理が認められます。

商法上の繰延資産と税法上の繰延資産との範囲について教えてください。

繰延資産は商法上の繰延資産と税法独自の繰延資産とに大別されます。株主や債権者の保護を目的とする商法では、資産性が充分でない繰延資産について、貸借対照表に計上できるものとしては、創業費、建設利息、開業費、試験研究費、開発費、新株発行費、社債発行費、社債発行差金の8項目に限定しています。繰延資産はそもそも換金性が全くない費用の塊ですから、株主、債権者保護の立場上「……計上することができる。」としています。

 税法上の、繰延資産は「法人が支出する費用のうち支出の効果がその支出の日以後一年間に及ぶもので資産の取得価格や前払費用以外のもの」とし、商法上の繰延資産としての上記8項目のほかに下記の税法独自の繰延資産を定めています。

1) 自己が便益を受ける公共的施設または共同的施設の設置または改良のために支出する費用(自社の都合で市道を舗装した額、同業者会館負担金など)。

2) 資産を賃借し、または使用するために支出する権利金、立退料その他の費用(借家権利金、立退料など)。

3) 役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用(ノウハウの設定の頭金など)。

4) 製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与することにより生ずる費用(看板、ネオンサイン、どん帳などの贈与費用)。

5) 上記のほか、自己が便益を受けるために支出する費用(レジャークラブ、同業団体の入会金など)。

 このように税務上の繰延資産の範囲は商法上の繰延資産よりかなり広範囲となっているので注意が必要となります。なお、ソフトウェアの開発費については平成12年4月1日より無形固定資産として計上することとなりました。

繰延資産の会計処理について教えてください。

商法上、貸借対照表に計上が認められている繰延資産は上記の8項目に限定されていますので、税法独自の繰延資産は、商法決算書上は繰延資産として計上することができず、長期前払い費用または無形固定資産として計上して償却するか、または一時の費用として処理することとなります。この場合において償却費として計上した金額または一時の費用とした金額がその繰越資産の償却限度額を超える場合には申告調整が必要となります。

 なお、試験研究費と一定の開発費については、従来は資産計上と費用処理の二つの方法が認められていましたが、「研究開発費等にかかる会計基準」が公表され、平成11年4月1日以降に開始する事業年度から、研究開発費はその発生に費用として処理することとなり新たに繰延資産とすることは認められなくなりました。

繰延資産の償却費はどのように計算しますか?

商法では上記8項目の繰延資産について一定の期間内に均等額以上の償却をすることを規定しています。しかしながら、税務上は損金経理を要件としますので、その法人が償却しない限り損金に算入できません。商法上の繰延資産は社債発行差金を除き税務上は任意償却が認められています。すなわち、損金経理を条件に、支出の段階で全額損金に算入しようと、その一部を損金に算入しようとその法人の自由です。これは、繰延資産について商法はその資産計上を強制しているわけではないので、計上をしない場合(費用処理した場合)に税法との取扱いの差が出てしまうため、その調整を図っているのです。

支出の金額*(当期の月数(注))/支出の効果の及ぶ期間)=償却限度額

(注)期中支出の場合には、支出時から期末までの月数。1月に満たない端数は1月とする。

 上記の算式中「支出の効果の及ぶ期間」は、それが固定資産を利用するために支出したものであれば、その耐用年数をもとに見積もり、契約に基づいて支出したものであれば、その契約期間を基礎として見積もります。また社債発行差金については、その社債の償還期間が支出の効果の及ぶ期間となります。しかし、見積もるといっても、法人によってその償却期間が異なることになり課税上不公平が生じることとなるため、取扱い例の多い繰延資産については取扱通達で償却期間を定めています。

当社は3月決算法人(一年決算)です。当期の10月20日に建物を賃借するために以下の費用を支出しました。1)借家権利金90万円、2)前使用者の立退料30万円、3)不動産業者の仲介手数料20万円。なお、契約期間は3年ですが、契約更新時に再び権利金を要するか不明です。また、この権利金は借家権として転売できるものではありません。税法の取り扱いはどのようになりますか?

借家権利金と立退料は繰延資産となり償却限度額の計算が必要です。なお、契約期間は3年ですが、契約更新時に再び権利金を要するか不明のため償却期間は原則の5年となります。また、不動産業者に支払った手数料は繰延資産とせずに損金に算入してもよいこととなっています。償却限度額は以下のとおりとなります。

1,200,000円(注1)*(6ヵ月(注2)/5年*12ヵ月)=120,000円

 (注1)90万円+30万円=120万円
 (注2)10月~3月……6ヵ月

 繰延資産は無形であり、支出時において費用処理している場合が多く、また繰延資産に該当するか否かの判断も難しい場合がありますので、税務申告に当たっては経理担当者の方から詳細な説明と契約書等の判断資料などの提示を求め、念査することが必要です。

14:資産の評価損