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連載8 III 資金繰りに困らない強い財務体質づくり(2)

2 損益分岐点を下げる

(1)自社の損益分岐点をチェックしよう

‡@ 損益分岐点とは
 経営者は年度末近くになると、「来期の経営ではこのぐらいの売上をあげ、最低これだけの利益を確保したい」と考えます。そして、「目標利益をあげるためにはいくらの売上が必要か?」、「売上はこのぐらいいきそうだが、コストをどの程度抑えておくべきか?」、「利益を多めに出すにはどうすればよいか?」

 などと思いをめぐらします。このような短期経営計画に役立つのが「損益分岐点分析」です。

 損益分岐点は、売上高と費用が同じで、利益も損益も発生しない売上高のことです。つまり、利益が出るか、損失が出るかの分かれ目であり、「使った費用を回収できる売上高」といえます。従って、分岐点が低ければ、それだけ少ない売上高で容易に黒字が出せるということになり、不況に強い経営体質となります。

(2)損益分岐点の出し方

‡@ すべての費用を変動費と固定費に分ける
 損益分岐点を出すには、会社のすべてのコストを変動費と固定費に分けて、採算点を検討します。

 「変動費」は売上高の増減に応じて変動する費用、「固定費」は売上高の変動に関係なく発生する費用のことです。具体的には、損益計算書に載っている費用項目、つまり売上原価・販売管理費・営業外費用について、売上高との関係からこの2つに分けます。売上高が増加すると増加し、反対に売上高が減少すると減少するのが変動費ですから、代表的なものに売上原価や製造業の場合の材料費や外注加工費などがあります。

 一方、固定費は企業経営を維持するのに必要な、いつも決まってかかる費用である給与手当・地代家賃・減価償却費・各種保険料などがあります。

 表1のように、販売管理費は売上高との関係から変動費と固定費に区分し、営業外費用については固定費として扱います。問題は売上原価です。流通業の場合は、売上原価をすべて変動費にしても構いませんが、製造業では売上原価の製造総費用に占める変動費と固定費の割合で、売上原価を概算で区分します。その他、変動費と固定費の区分のつきにくいものは、実態に合わせて比例按分します。

 

変  動  費

固  定  費









・原材料費
・放送材料費
・購入部品費
・電力費の変動分
・燃料費の変動分
・仕入運賃
・外注加工費
・賃金 ・旅費交通費
・退職給与引当金損 ・通信費
・賞与 ・交際費
・福利厚生費 ・保険料
・消耗品費 ・修繕費
・電力費の固定分 ・租税公課
・燃料費の固定分 ・減価償却費
・研究開発費 ・雑費










・荷造運賃
・販売手数料
・役員報酬 ・旅費交通費
・給料手当 ・通信費
・退職給与引当金損 ・交際費
・賞与 ・保険料
・福利厚生費 ・租税公課
・広告宣伝費 ・減価償却費
・消耗品費 ・寄付金
・水道光熱費 ・雑費
  ・支払利息・割引料(営業外費用)

‡A 損益分岐点の計算
 では、公式を使って、損益分岐点を出してみます。

             変動費
損益分岐点=固定費÷1- ―――――
             売上高

 仮に売上高が1、000万円、変動費600万円、固定費300万円、利益100万円の会社ですと、

            600万円
750万円=300万円÷1- ――――――
            1,000万円

 となります。

‡B 限界利益と限界利益率
 限界利益とは売上高から変動費を差引いた額で、固定費を吸収する源といえます。そして、売上高に対する限界利益の割合を限界利益率といいます。流通業では粗利益率にほぼ近いものです。

 売上高-(変動費+固定費)=利益
 売上高-変動費=限界利益=固定費+利益
 限界利益÷売上高=限界利益率
 固定費÷限界利益率=損益分岐点売上高

‡C 自社の損益分岐点の位置を知ろう
 損益分岐点を出したら、それが実際の売上高に対し何%の位置にあるかを確かめます。この計算は次のようにして求めます。

損益分岐点の位置=損益分岐点売上高実際の売上高×100

 先程のケースですと、

750万円÷1、000万円×100=75(%)

 ですから、分岐点の位置は75%となります。

 また、1から損益分岐点の位置をひいたものを「経営安全率」といいます。この場合ですと、

1-0.75=0.25

 ですから、経営安全率は25%となります。

 これは現在の売上高が25%低下すると、利益が0になることを示します。

 経営安全率が10%を切ると、余裕のない経営状態といえます。目標は30%以上です。


3 損益分岐点の活用法

 損益分岐点には、重要な経営目標を算出するための様々な利用方法があります。

‡@ 来期の目標利益をあげるのに必要な売上高を求めるには

        固定費+目標利益
目標売上高 = ―――――――――――
           変動費
        1- ―――
           売上高

‡A 借入金返済に必要な売上高を求めるには

         固定費+借入金返済額×(税金50%)
目標売上高 = ―――――――――――――――――
              変動費
           1- ―――
              売上高

 

‡B 固定費が増加した場合の分岐点を求めるには

                     変動費
損益分岐点= (固定費+増加固定費)÷1-――――
                     売上高

‡C 販売価格がα%増減した場合の分岐点を求めるには

              変動費
損益分岐点=固定費 ÷1- ――――――――
               売上高(1±α%)

‡D 変動費がα%変わった場合の分岐点を求めるには

               売上高(1±α%)
損益分岐点=固定費 ÷1- ――――――――
              売上高

4 損益分岐点を下げる方法

 売上高が伸びなくても利益が出る不況に強い会社づくりのためには、損益分岐点をできるだけ下げなくてはなりません。不況抵抗力がつき、結果的に資金繰りがラクになります。分岐点を下げるためには、次の3つの方法があります。

‡@ 固定費を削減する
 人件費、3K費用(交際費・交通費・広告宣伝費)、賃借料、支払利息などの削減

‡A 変動費を削減する
 製造原価、仕入原価、物流費などの削減

‡B 売上高を増やす
 販売数量の増加、販売単価の向上、販路開拓など

 大切なのは、自社にとって一番効果的でやり易い方法は何かを定め、優先的にその対策を実行することです。

 一般的には、固定費を下げる方が早く効果が上がります。ここでは3つの視点で対策を考えてみます。

‡@ 固定費を変動費に変える
 加工・サービスの外注化、パート・アルバイトの活用、成果配分型人件費へのシフト

‡A 時間コストを削減する
 作業時間当たりの能率向上、アイドルタイムの解消、納期の短縮、自動化・省力化機械の導入など

‡B 空間コストを削減する
 工場・倉庫・売場・事務所におけるスペースマネジメントの徹底、地代家賃の値下げ交渉、配送コストや在庫関連費用の圧縮など

9:資金繰りに困らない強い財務体質づくり3