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第4回 「棚卸資産の販売収益」税理士 細野 知久

 収益及び費用の計算に関する通則の中から、棚卸資産の販売による損益にかかる部分のうち収益の計上時期を中心に説明します。

 金額の測定については第2回で既に解説されておりますので、本稿では触れません。

棚卸資産の販売に関して、売上の計上時期はどのように考えたらよいのでしょう。

企業会計における収益と法人税における益金とは必ずしも一致しないことは、前回までに説明をしてありますが、収益の主要部分である「売上」の計上時期についての法人税法の考え方を中心に解説を行います。

 まず、棚卸資産の販売による収益の帰属の時期については、法人税法基本通達で「棚卸資産の販売による収益の額はその引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入する。」と規定されています。

 「引渡しがあった日」といっても、業種・業態によって様々なケースが考えられますので、例示として‡@出荷した日、‡A相手方が検収した日、‡B相手方において使用収益できることになった日、‡C検針等により販売数量を確認した日などを掲げています。そして、その棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じ、その引渡しの日として合理的であると認められる日のうち、法人が継続してその収益計上を行うこととしている日によるとしています。

 具体的には、

 ‡@卸売業のように、客先からの発注に基づいて毎日のように発送するようなケースには「出荷した日」が、

 ‡A製造業のように、注文に従って仕様書等に基づいて製造し、納品時に検品を受け規格に合格したものだけが客先の生産ラインで使われるようなケースには「相手方が検収した日」が用いられるでしょう。

 また、‡B製造設備のように、据付、試運転などを経て完全に使える状態で引き渡しをすることを想定した場合には「相手方において使用収益が出来ることとなった日」が引渡しの日となるでしょう。

 ‡C電気・ガス・水道のように、使用量を量るメータがある場合を想定した「検針等により販売数量を確認した日」が「引渡しがあった日」として考えられます。

 この他にも、‡D納品を運送業者に委託している場合で納品時に客先から受け取る物品受領書の日を売上計上日とすることや、また、‡E通信販売のように、一定期間は返品が可能な場合には発送の日ではなく返品可能な期限(クーリングオフ期限)を経過した日に売上を計上することなども考えられます(図1)。

 このように棚卸資産の販売形態は業種・業態により千差万別ですが、その実状に会わせて、合理的であることが要求されます。そして、一旦採用された計上基準はむやみに変更することなく継続して適用することも大切です。

 いずれの場合も「出荷伝票」、「物品受領書」、「検収通知」、「引渡し確認書」などでその事実を後日証明できるようにしておき、税務調査の際に無用なトラブルを避けたいものです。


法人税法でいう「棚卸資産」には土地も含まれると聞きましたが、それはどんな場合ですか。またその場合、引渡しの日はどのように考えればよいでしょう。

土地の分譲をする企業等が販売する目的で保有している土地、または借地権のような土地の上に存する権利は、固定資産ではなく棚卸資産に該当します。この場合、下記に掲げる日のうちいずれか早い日にその引渡しがあったものとすることが出来るとされています。

‡@ 代金の相当部分(おおむね50%以上)を収受するに至った日

‡A 所有権移転登記の申請(その登記の申請に必要な書類の相手方への交付を含む)をした日

 

売り値が決まらないまま納品をしたのですが、この場合どのように経理処理をしておいたらよいでしょう。

急な注文に仮納品書で納品することも見受けられますが、それが決算期末にかかった場合は困りますね。その場合には標準的な販売価額などで売上を見積計上しておき、もし後日その金額と異なる金額で確定したら、その差額を金額が確定した日に増額又は減額処理をしてください。

 

当社は、婦人衣料の卸売りをしています。ほとんどの売上先は百貨店・ショッピングセンター等のテナントである小売業者ですが、委託販売の形式を取っており、毎月20日に締め切り、文書で売れた商品の報告を受け、翌月10日に精算金を受け取っています。この場合、売上はどのように計上すればよいのでしょう。なお、決算は3月31日です。

委託販売商品の売上高は、その委託品について受託者が販売をした日に売上の計上をするのが原則です。しかし、受託企業が毎日受託品の販売報告をするのが困難な場合が多く見受けられます。そんなとき、毎月一定の日で締め切り、報告書を提出し、後日その代金を精算することは一般的に行われています。法人税法基本通達では「その委託品についての売上計算書が売上の都度作成され送付されている場合において、法人が継続してその収益をその売上計算書の到達した日の属する事業年度の益金の額に算入しているときは、これを認める」としています。

 また、受託者が週、旬、月を単位として一括して売上計算書を作成している場合においても、それが継続して行われているときは、「売上の都度作成され送付されている場合」に該当するとされているので、貴社の場合は、毎月20日締め切りの報告書が継続していれば、その金額を基礎に売上を計上すれば良いでしょう。

当社はコンピュータ機器の販売の他にソフトウェアの開発・販売と各種サーバーマシンの保守管理業務を行っています。これらの役務の提供に関する売上の計上時期はどのようにすればよいでしょう。

契約の仕方で計上時期を決めます。ソフトウェアの開発・販売では棚御資産の「引渡しがあった日」と同様に上記Q1の‡@から‡Eの考え方が援用できます。また、契約の内容によっては「請負による損益」の計上基準を参考にしてください。

 保守管理業務では契約期間・料金設定と請求日が月単位ならその月ごとに、年単位なら請求権の発生する日が売上計上時期となります。また、保守管理業務では特定の担当者が業務に携わった時間数や日数で請求する例も見られますが、決算期末にかかる場合は、あらかじめ取り決めた単価に時間数等を乗じて算出した額を売上に計上します。

 今回は棚卸資産の販売を中心に解説をしましたが、近年ソフトウェア産業などの第三次産業と呼ばれるサービス業が増えていることから、企業の売上高の中に占める「役務の提供」の割合がますます増加してくることが考えられます。                                   

 棚卸資産の販売における「引渡しの日」に相当する「役務の提供が完了した日」の基準も、棚卸資産に準じて相手方との書類の授受によってその日を確定しておくことが重要になってくるでしょう。

5:収益の通則……固定資産の譲渡収益