ゼイタックス

第8回 「費用損失通則・・・販管費・損失」税理士 星山 光雄

 前回は、「費用損失通則」のうち売上原価及び販管費等の計上時期を中心に解説しました。
 今回は、販管費等の特殊な取扱いと損失について解説していきます。

当社(3月決算法人)は、2月に新たに事務所を開設し、その賃貸借契約締結時に約定に基づいて来年1月までの1年分の家賃を支払いました。この場合、4月以降の家賃につきましては、今期の損金の額に算入されないこととなるのでしょうか。

ご質問の1年分の家賃につきましては、継続適用を要件に、その全額を支払った日の属する事業年度の損金の額に算入することができます。

 本来、一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち、その事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものについては、企業会計上、前払費用として資産に計上することとなります。法人税法においてもこの前払費用部分は、原則として、損金の額に算入することはできません。

 ただし、前払費用のうちその支払った日から1年以内に役務の提供を受けるもの(短期の前払費用)につきましては、企業会計上の重要性の原則(法法22‡C)の立場から、継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入している場合には、その処理を認めることとされています(法基通2―2―14)。

 

当社は、期末近くに銀行から融資を受け、その資金全額を外貨預金で運用しています。この借入金については融資実行時に1年分の利息を支払いましたが、短期の前払費用として利息の全額を当期の損金の額に算入しても良いのでしょうか。

Q1のように、短期の前払費用につきましては継続適用を要件に、その支払った日の属する事業年度の損金の額に算入することが認められています。

 ただし、ご質問のように借入金とその運用資産である預金、有価証券等がひも付き関係にある場合には、その運用資産から生ずる収益の計上と対応させる必要があることから、1年分の支払利息を支出時の損金の額に算入することはできません(法基通2―2―14(注))。

 つまり、受取利息等が発生分のみ収益に計上されることに対応して、支払利息についても期間の経過に応じて損金の額に算入する必要があるのです。

 

当社は、事務用消耗品などを毎月購入しており、未使用分は在庫となっておりますが、特に棚卸しは行っておりません。当社では、これらの消耗品につきましては購入時に費用として処理していますが、法人税法上も損金として認められるのでしょうか。

法人税法では、消耗品で貯蔵中のものは棚卸資産とされていますので、これらを取得した時に損金として処理するのではなく、これらを消費した時に損金として処理することとなります。よって、消耗品の取得要した費用の額を取得日の属する事業年度の損金の額に算入することはできません。

 ただし、事務用消耗品、作業用消耗品、包装材料、広告宣伝用印刷物、見本品等の棚卸資産のうち、毎期おおむね一定数量を取得し、かつ、経常的に消費するものについては、その取得に要した費用の額を継続して取得日の属する事業年度の損金の額に算入している場合には、これを認めることとされています(法基通2―2―15)。

 ご質問の場合も、継続適用を要件に損金の額に算入することができます。

 

法人税法上損金の額に算入される損失とは、どのようなものでしょうか。

法人税法第22条第3項第3号では、「当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」は、当該事業年度の損金の額に算入すると規定しています。

この損失の意義について、法人税法では特に規定していません。よって、同条第4項に規定されていますように、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されることとなります。

 会計において損失とは、収益の獲得のための活動に貢献せず、収益と因果関係のない財産上の価値の喪失をいうものとされています。具体的には、貸倒損失・災害損失・盗難損失・固定資産売却損失などがあげられます。

 

償却費以外の販売費、一般管理費その他の費用(販管費等)につきましては、損金算入するための要件として事業年度末までの債務確定がありましたが、損失についても同様の取扱いとなっているのでしょうか。

法人税法第22条第3項第3号では、損失が損金の額に算入されるためには、次の要件が必要であるとしています。

  ‡@ 当該事業年度の損失であること
  ‡A 資本等取引以外の取引に係るものであること

 この規定の中では、債務の確定について明確にされていませんので、損失を損金の額に算入するにあたって、債務確定は不要ではないかとも考えられます。

 ところが、資産の減失等(建物の焼失や盗難による損失等)の場合には、減失等の事実により損失が明らかとなりますし、また、不法行為等により損害賠償責任が発生した場合などについては、その債務が確定して初めて損失と認識できることとなりますので、あえて債務確定を要件とするという文言は必要でないと考えられます。

 つまり、損失については債務確定はすでに要件となって成立しているものと考えられます。

 

損金の額に算入されない資本等取引とは、どのようなものをいうのでしょうか。

法人税法第22条第3項第5号では、資本等取引とは次のものをいうと規定しています。

  ‡@ 法人の資本等の金額の増加又は減少を生ずる取引
  ‡A 法人が行う利益又は剰余金の分配

 この資本等の金額とは、資本の金額又は出資金額と資本積立金額との合計額をいいます。

 資本等の金額の増加又は減少を生ずる取引とは、増資や減資などの資本自体が増減するもののほか、資本積立金を取り崩して資本に組み入れることなども含まれます。また、利益積立金を取り崩して資本に組み入れる場合も、資本が増減することとなりますので、資本等取引に該当することとなります。

 よって、これらの取引により発生する減資差損等は損金の額に算入されないこととなります。

 利益又は剰余金の分配としては、利益配当があげられますが、これは利益処分によるもののみに限定されているわけではありませんので、実質的に利益又は剰余金の分配とみられるもの(例えば、みなし配当など)についても資本等取引に該当することとなります。

 法人税法では、償却費以外の販管費等について、その計上の要件として事業年度末までの債務確定を規定することにより、企業の恣意性を排除し課税の公平を図ることとしています。

 一方、短期の前払費用のようにいわゆる重要性の原則の立場から、企業の事務負担等を考慮した弾力的な取扱いも認められています。

 経理マンとしては、税法を遵守することはもちろんのこと、このような企業にとって有利な取扱いをも熟知し、実務に生かしていく必要があるのではないでしょうか。

9:受取配当等の益金不算入