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第11回 「有価証券の評価」税理士 大澤 清

 今般、企業会計での時価会計の導入により、有価証券の評価についても、金融商品会計基準が適用されることとなりました。法人税法においてもこれに対応して、期末時価による有価証券の評価損益が、益金又は損金の額として課税所得に算入されることとなります。

 会計上の有価証券の区分と、法人税法上のそれとは微妙に範囲を異としており、実際の税務申告にて、有価証券を時価評価する場合は、かなり要件が限定されていますので、今回はその区分の違いと対象となる有価証券の要件を中心に解説します。

会計上の有価証券の区分と税務上の区分については、どのような違いがあるのでしょうか。

会計上の区分と、法人税法上の区分の概略をまとめてみますと、右記の表1のようになります。一瞥しますと、会計上はその本来の保有目的などから、比較的簡潔に区分されていますが、税務上の区分には、帳簿書類への記載など煩雑な要件が付されています。

 とくに、税務上その評価損益が、益金又は損金に算入される売買目的有価証券については、後述するように具体的かつ詳細な要件が定められています。

 法人税の対象となる会社には、小規模な零細企業から、監査法人の監査を受ける公開企業まであるため、必ずしも企業会計が要求する厳格な帳簿処理や決算書での表示が実施されているわけではありません。そこで、実際の納税をともなう課税所得の計算においては、課税制度の執行上、疑義の生じないような措置となっているものと解されます。また、組織的な内部牽制が存在しない小企業においては、会計上要求される保有目的などを、客観的に立証しにくいという実状もあろうかと思われます。

(表1)会計上の有価証券の区分と評価基準のポイント
「金融商品に係る会計基準」より)

  目的による区分 評価基準
売買目的有価証券  時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券 時価
満期保有目的の債券  満期まで所有する意図をもって保有する社債その他の債券 償却原価
子会社株式及び
関連会社株式
 支配力・影響力から、子会社又は関連会社と判定された株式 原価
その他有価証券  売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式及び、関連会社株式以外の有価証券 時価
市場価格のない有価証券  上記の取得の目的による区分以外のものについて、言及している。 原価又は償却原価

(表2)税務上の有価証券の区分と評価方法

  目的による区分 評価事業
売買目的有価証券
…法令112の12
【専担者売買有価証券】
 短期的な価格の変動を利用して、利益を得る目的(短期売買目的)で行う取引に専ら従事する者が、短期売買目的でその取引を行ったもの
期末時価
【短期売買有価証券】
 取得日に短期売買目的で取得したものである旨を、帳簿書類に記載したもの。
【金銭の信託に属する有価証券】
 金銭の信託のうち、その契約を締結したことに伴いその信託財産となる金銭を支出した日に、その信託財産として短期売買目的の有価証券を取得する旨を帳簿書類に記載したものの、その信託財産に属する有価証券
満期保有目的など有価証券
…法令119の2(2)
還元期限の定めのある有価証券(売買目的有価証券を除く)のうち、償還期限まで保有する目的で取得し、かつ、その取得の日においてその旨を帳簿書類に記載したもの。 償却原価
【企業支配株式】
 法人の特殊関係株主等が発行済み株式の総数又は出資額の20%以上を有する場合のその株式または出資
取得価格
その他の有価証券
…法令119の2(2)
売買目的有価証券及び満期保有目的等有価証券以外の有価証券



具体的に、法人税法において時価評価の対象となる売買目的有価証券とは、どのようなものとなりますか。

表2の売買目的有価証券については、通達において下記のように規定されています。

(1)専担者売買有価証券(法基通2―3―6)
‡@ 法人が特定の取引勘定を設けて、有価証券の売買を行い、かつ、トレーディング業務を日常的に遂行し得る人材から構成された独立の専門部署(関係会社を含む)により運営されている場合の有価証券をいいます。

‡A これは、典型的なものとして、銀行や保険会社などの金融機関を想定しています。メーカーなどの一般事業会社では相当規模の業務でなければ、実際は該当しにくいものと考えられます。

(2)短期売買有価証券(法基通2―3―27)
‡@ 有価証券の取得の日に、その有価証券を売買目的に係る勘定科目により区分している場合の有価証券をいいます。

‡A ただし、短期間に売買し、又は大量に売買を行っていると認められる場合であっても、上記‡@の売買目的に係る勘定科目により区分していないものは、該当しないものとされています。

‡B これは、一般の事業会社を想定したものですが、実質的に余剰資金の運用とみられるような、継続的・反復的な売買を行っていても、会社の帳簿上、その旨を勘定科目で区分していなければ、時価による強制評価はしないという意味となります。具体的な処理として、「売買有価証券」、「商品有価証券」などの勘定を設けていなければ、適用されないということです。

‡B 実務上、決算書においては「有価証券」として流動資産の部に表示されている場合が普通ですが、税務上は申告書に添付する「勘定科目内訳書」において、これらの区分の記載をすることとなります。また、付属明細書を添付する会社では、そこでの記載も重要なポイントとなります。

(3)金銭の信託に属する有価証券(法基通2―3―28)
‡@ 特定金銭信託及びファンドトラスト等に属する有価証券は、信託の契約ごとに、売買目的有価証券に該当するかどうかの判定をします。

‡A これについても、上記、と同様に、帳簿書類への記載が要件となります。

有価証券の保有目的による区分を変更した場合又は新たに区分を設けた場合については、どのような取扱いとなりますか。

取扱いとしては、下記の表3のようになります。

(表3)保有目的区分の変更による取り扱い(法令119の11)

変更前の区分 変更の事実 変更後の区分
売買目的有価証券  企業支配株式に該当することとなったこと 満期保有目的等有価証券
 短期目的の売買業務の全部を廃止したこと
留意事項1
満期保有目的等有価証券
その他の有価証券
満期保有目的等有価証券(企業支配株式に限る)  企業支配株式に該当しなくなったこと 売買目的有価証券
その他の有価証券
その他の有価証券  企業支配株式に該当することとなったこと 満期保有目的有価証券
 新たに短期売買業務を行うこととなったことに伴い、その有価証券を短期売買業務に使用することとなったこと
留意事項2
売買目的有価証券

留意事項(1)
‡@ 短期売買業務の全部を廃止したという事実は、反復継続して行う有価証券の売買を主たる業務として又は従たる業務として営んでいる法人が、その業務を行っている事業所、部署等の撤収、廃止等をし、その法人がその業務そのものを行わないこととしたことをいうのであるから、単に保有する売買有価証券の売却を行わないこととしたことは、その事実に該当しないものとされます(法基通2―1―23の2)。

‡A これは、金融機関などが損失を顕在化させないために、一時的に売買業務をとりやめ、保有区分を売買目的有価証券から満期保有目的有価証券へ変更するような、恣意的な利益調整を防ぐ措置と思われます。

留意事項(2)
‡@ 新たに短期売買業務を行うことは、昨今の情勢下では多くはないかと思われますが、実務上の問題として、事業会社などが従来から保有している有価証券の保有区分を変更又は明示して、売買目的有価証券として評価損を出そうとするケースが想定されます。

‡A これについては、平成12年4月1日以後開始する事業年度(改正事業年度)の開始の日において売買目的有価証券として、帳簿上の区分表示がされていることだけでは適用されず、平成11年10月1日から平成12年3月31日までの期間に遡って、その有価証券と銘柄を同じくする有価証券を取得し、かつ譲渡を行っている場合という要件が付されています(法令附則11)。

‡B 要は、改正事業年度以後に取得した有価証券については、会社の意思表示である帳簿への区分記載で売買目的有価証券とされますが、それ以前に取得した有価証券については、上記期間において実質的に短期売買が行われていない場合は、売買目的有価証券とは認められないという意味となります。

 以上解説したように、今回の法人税の改正は、企業会計での金融商品会計基準に対応したかたちをとっているので、概念区分はそれを基礎としていますが、税務申告上で適用となる有価証券は、かなり制約されたものとなります。

 本来、担税力のない未実現の損益であることへの慎重な配慮もありますが、会計上の保有目的による有価証券の区分が抽象的であることから、税務においては会社の意思として、帳簿記載など経理処理が重要なポイントとなります。また、いったん決めた保有目的による区分については、その変更が課税所得に影響されますので、慎重な判断が必要となります。

12:減価償却資産の償却など