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連載15 IV 銀行との上手な付き合い方(3)

2 銀行に嫌われない上手な付き合い方

(1) 銀行が切り捨てたくなる会社とは
 銀行との取引を上手に進めるためには、貸し手という有利な立場の銀行側が好感を持つ方法を考えることが大切です。ここでは、どういった経営者や企業が銀行に嫌われるかを見てみます。

‡@ 困ったときに泣きつくだけの経営者
 資金が必要になったときだけの銀行との付き合いでは、銀行にとってのメリットは融資に対する利息でしかありません。そんな企業に貸すよりは、経営者が個人的な定期預金を預けてくれたり、さまざまなサービスを利用してくれるような協力的な企業に貸したほうがメリットとしてはずっと大きいのです。

‡A 政治家など有力者の名前を多用する経営者
 政治家や地元の実力者などの名前を使って圧力をかけ、強引に融資を引き出そうとする経営者は少なくありません。実際には、経営者が口にするほど、実力者との関係が親密ではない場合が多く、また、銀行が貸せないといっている企業に強引に融資を求めるような危険を冒す実力者が減っているからです。

 圧力をかけられて嬉しがる融資担当者や支店長はいません。誰の紹介であろうとダメなものはダメ、それほどシビアになっていると考えるべきです。

‡B 事業計画や経営計画が不透明な会社
 資金の流れがきちんと数値で説明できない会社には銀行は融資したがりませんし、そんなドンブリ勘定をしている企業との取引にはリスクが伴います。資金の使いみち(使途)を明瞭にし、その資金によってどれほどのメリットが生じるかを数字で説明することが必要です。

‡C 即断即決を求める会社
 突然やってきて「いくらいくら貸してくれ」という、バブル時代の感覚を引きずっている経営者もいます。突然資金が必要になること自体、その会社の計画性のなさを公言しているようなものです。

‡D 経営者の素行が悪い会社
 情報収集は銀行の大切な仕事であり、ほとんどの銀行は地元の商工会議所や法人会、商工会や同業者団体、ときには企業の内部にもニュース・ソースをしっかりとつかんでいます。経営者の言動はすぐに銀行の耳に入る、と心得ることです。

‡E 取引銀行を次々と変える会社
 「支店長や担当者が気に入らない」、「安い金利で借りるのが経営者の鉄則だ」などといった理由で、銀行との長年の取引を一方的に切ったり、金利につられてやたらに銀行を変える経営者は自戒すべきです。転勤になった以前の担当者が「近くまで来たから」と寄ってくれる会社が、銀行が今後も付き合いを大切にしてくれる企業といってもいいでしょう。そんな企業であれば、優良顧客として公認に引き継がれていくものです。

(2)銀行が好感を持つ取引の仕方とは
‡@ 優良な取引先を紹介する
 銀行は金融の自由化の中でお互いに厳しい競争を行っていますが、取引先、なかでも優良な取引先の確保が営業戦略の基本となっています。ですから、大小を問わず、自社の知っている堅実な取引先を紹介すると大変喜ばれます。また、有力な個人資産家を自社が実際に取引をしている近郊の支店に紹介し取引を結んでもらうと、優良取引先の紹介者として株があがります。

‡A 預金などの協力をする
 銀行が貯金面のかさあげを求めてきた時には、無理のない範囲で進んで協力することです。そうした協力は大いに目立ち、支店長からも感謝されます。

‡B 取引効率の良い取引先
 銀行にとって一定の採算が確実に見込める取引先になることです。銀行にとって優良先とは、単に企業内容がすぐれ将来性にむ、という企業そのものの魅力だけでなく、貸出面で採算のとれる取引先であることです。長い間の取引関係の中で、いつも安定した収益を見込める企業こそ、銀行にとって最も喜ばしい取引先です。この採算ベースにのるということ、言いかえると貸出金利面で銀行の採算ラインをいつも割っていないこと、一定の利ざや、収益をいつも相手に与えていることが重要です。

‡C 金融商品の販売などに協力的な取引先である
 銀行が扱っている様々な金融商品やサービスに協力的であることです。支店の評価は、預金、貸金、収益といった計数目標の達成度合いのほか、営業活動の基盤を将来にわたって拡大する金融商品や公共料金の自動振替などの各種金融サービスへの加入、獲得度合が加味されます。多くの支店では9月の中間決算や3月の本決算時に目標達成度合いが評価されるので、タイミングを見て少しでも協力すると大変喜ばれ、感謝されるものです。

‡D 情報提供に協力する
 預金源や新規融資につながる情報の提供者になることです。支店の限られた行員だけでは情報収集の範囲も限定されるので、自分が入手する情報、たとえば近所や社員の住宅施設に伴う住宅ローンの紹介などは、銀行にとって安定した収益が確保される融資ができるため、ありがたい情報となるのです。

 このように銀行が感謝するような行為や情報提供は、わずかな工夫やヒントがあればできることもあります。タイミングをみて進んで協力すれば、自社の評価が高まり、信用の増大にもつながります。

(3)関係会社の金融サービスを利用する
 銀行は、顧客サービスの一環として、多様な顧客ニーズにこたえるために総合的な金融サービスを提供する子会社を設立しています。

 ファクタリング、リース、ローン保証、ベンチャーキャピタル、コンピューターサービス、損害保険代理などいろいろありますが、こうしたサービスを積極的に利用するのも良い方法です。ただ注意したいのは、こうした金融会社は、ベテラン行員の受け皿対策的なものもあるので、そうでないものは見送るといった選択の判断も必要です。

(4)銀行のメイン化推進策に乗る
 メインバンクの存在は、企業から見ると「資金が足りなくなって困っている時に、気軽に融資してくれる」頼もしいものですが、銀行側から見る企業や個人の「メイン化」のニュアンスとは、かなりへだたりがあります。銀行から見た「メイン化推進」は、あくまで取引という面からの協力度です。企業がいくら「A銀行は長年にわたってうちのメインバンクだ」と考えていても、銀行から見ると、企業の信用度や取引協力面で他より劣っていれば、メイン先とはならないのが現実です。そこで、銀行がどのようにして企業をメイン先として管理しているのかを研究し、そのメイン化策に上手に協力して乗っていくことが大切です。

 銀行のメイン化推進は、基本となる融資や預金のシェア以外に、職域取引の有無などがポイントとなります。「社員の給与振込」「財形振込」「役職員取引」「提携社員ローン」などに加入していなければ、経営者や経理部長が音頭をとって一括加入すると「メイン度」があがると同時に、大いに感謝されます。

(5)銀行主催のイベントにはなるべく参加する
 銀行では顧客サービスの一環として、勉強会など各種イベントを開催し、情報提供を図りながら懇親を深めています。こうした会合はつとめて参加しておくことがポイントです。そして出席する以上、最前列席をとり熱意を示すことが効果的です。

(6)経営支援のために人材を派遣してもらう
 中小企業は人材が集まりにくいこともあり、幹部・スタッフの人材不足の傾向は強いものです。中小企業が成長していく過程で、人材の確保はきわめて大切ですが、こうした人材の確保を依頼するものも良い方法です。銀行から派遣された人が、資金調達の太いパイプ役としてだけでなく、情報交換や人間関係の面でも大きな役割を果たし、受け入れ側の企業にメリットをもたらす場合があります。

 問題なのは、企業が業績不振に陥り、債権確保の名目のもとに銀行から派遣されるケースです。場合によっては経営権を奪う目的で派遣されるケースもあるので、事前にしっかり確認することが必要です。

(7)取引銀行の株主になる
 取引銀行の株を所有することは、銀行への協力度の点で高く評価されますが、問題は企業側にとっての投資コストにあります。銀行株は、比較的株価の変動幅が少なく、また配当率も一定しているので、採算面ではあまりうま味はありません。

 したがって株式の取得は、あくまで銀行、なかでもメインバンクとの心理的なつながりの強化という面でとらえることが肝心です。銀行の株式取得は、単に採算面では測れないメリットを多分に含んでいるからです。

16:銀行と上手な付き合い方(4)