
使用人に対する賞与は原則として損金の額に算入されます。しかし、使用人に対する賞与であっても、一定の条件をクリアしないとその損金性が否定されることもあります。
また、損金処理できる役員報酬であっても、その内容によっては、役員賞与と認定されてしまうこともあります。
そこで今回は、「役員賞与、使用人賞与」という視点でどのような条件に該当すれば損金性が認められるのか、いくつかをピックアップして解説していきます。
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賞与についての基本的な考え方と、役員賞与、使用人賞与に係るそれぞれの法人税法における取扱いについて教えてください。
賞与とは臨時的に支給される給与のうち、ほかに定期の給与を受けていない者に対して継続して所定の時期に支給されるもの(例えば年俸制のような支給形態のもの)や、退職金以外のものをいいます。
法人税法上の取扱いとして、使用人に対して支給される賞与は原則として損金の額に算入されます。
役員に対して支給される賞与は、損金の額に算入されません。
役員賞与の損金性が否定されているのは、業績に対する報償としての性格を持ち、利益処分により株主総会の決議を経て支給されることから、損金としての性格を持たないものとされているからです。
使用人に対して支給される賞与であっても損金の額に算入されないことがあるのでしょうか。
使用人に対する賞与は原則として損金の額に算入されますが、次のいずれかの要件に該当するような場合には損金の額に算入されないことになります。
‡@ 支給した賞与について、確定した決算で利益処分による経理をしたとき(法法35‡B) ‡A 役員の親族など、特殊関係使用人に対して支給した賞与のうち不相当に高額な部分の金額
なお、特殊関係使用人には、役員の親族の使用人の他に、役員と事実上の婚姻関係と同様の関係にある者や、役員から生計の支援を受けている者及びこれらの者と生計を一にする親族も含まれます(法令72の2)
決算日がせまり、業績も好調なので使用人に対する決算賞与を、よく事業年度に支給しようと考えています。このような場合でも当期の事業年度で損金の額に算入できるのでしょうか。
その事業年度の末日において、まだ支給されていない使用人に対する賞与は、次の要件を全て満たす場合のみ、その事業年度の損金の額に算入することができます。
‡@ 支給額を各人別に、かつ同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知していること ‡A ‡@の通知した金額を通知したすべての使用人に対して翌事業年度開始の日から1ヵ月以内に支払っていること ‡B 支給額について知した日の属する事業年度で損金経理をしていること
支給日に在職する使用人のみに賞与を支給することとしている場合には、上記‡@の要件を満たしていることにはなりません(法基通9-2-31)ので、通知した人には必ず支給する必要があります。
役員報酬の増額決議を行い期首に遡及して増額分を一括支給するような場合は、役員賞与ということで損金の額に算入されないのでしょうか。
増額分を一括支給すると、その支給月だけ支給額がはねあがってしまい、臨時的な給与のように感じられますが、次の条件で一括支給するような場合には、役員報酬として損金の額に算入されます。
‡@ その決議が定時株主総会でなされていること ‡A 決議の日の属する事業年度開始の日以後の分を増額決定していること
したがって、臨時株主総会で増額決定し遡及するような場合には、役員賞与とされ、損金の額の算入されません。また、上記の条件を満たすためには、さかのぼっても2~3カ月程度の増額支給分しか損金処理できないことになります。
使用人兼務役員に対する賞与の額が損金の額に算入されるための条件について教えてください
使用人兼務役員の使用人分賞与については、次の要件のすべてに該当する場合に限り損金の額に算入されます。
‡@ 他の使用人に対して支給する賞与の支給時期に支給すること ‡A 支給した事業年度において損金経理すること ‡B 他の使用人に対する賞与の額と比較して適正であると認められる金額であること
使用人兼務役員は取締役としての資格を有すると同時に、使用人としての職制上の地位も有しています。そのため、使用人兼務役員に対する賞与の額も他の使用人と同じ状況にあることを前提として、損金の額に算入されることになります。以下、その条件について解説します。
1 支給時期 他の使用人の賞与と同時期に支給されることが求められています。例えば、利益処分による役員賞与の支給時期に支給したような場合には、一般の使用人としての地位と同一視できないため、損金の額に算入されません。
2 損金経理 賞与には、本来、利益配分としての性格があるので、一般使用人に対する賞与であっても損金経理を要件に損金算入を認めています。
したがって、使用人兼務役員に対する使用人分の賞与についても同様の処理が要求されます。
3 適正額
金額の妥当性については次の2つの方法により判断します。
‡@ その使用人兼務役員と同様な職務内容の使用人に支給した賞与の額を適正額とする方法 ‡A 比較すべき適当な使用人がいない場合には、その使用人兼務役員が役員となる直前に受けていた給料の額、その後のベースアップの状況、他の使用人のうち最上位にある者に対する給料の額等を参酌する方法

役員賞与は利益処分による役員賞与のことだけをいうのではありません。
法人が役員に対して行った行為により、実質的にその役員に対して給与を支給したのと同様の経済的効果をもたらす場合がありますが、これも役員賞与の額に算入されます。例をあげてみますと、次のようなものがあります。
‡@ 役員に法人の資産を無償または低額で譲渡した場合 ‡A 役員に対して有する債権を放棄または免除した場合 ‡B 個人的な費用を会社が負担した場合等
役員に対する経済的利益は、それが経常的、定額的なものは役員報酬として、臨時的なものであれば役員賞与として取り扱われます。
役員賞与に該当すると会社の方では損金の額に算入されず、他方で役員個人の給与所得にも加算されます。ちょっとした思い違いがもとで経済的に利益として賞与認定されると、会社と個人で税金の往復ビンタを受けてしまいます。役員のからむ取引には、より慎重に処理するように留意する必要があります。
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